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2014-11-07 00:00
円安でも株価は上がらなくなった理由
田村 秀男
ジャーナリスト
日本の株価は変調をきたしている。消費税増税後の景気動向を示す4~6月期の国内総生産(GDP)第1次速報値が発表された8月13日が転換点である。以来、発表される景気指標は市場に重くのしかかる。案の定、株価円建て、ドル建てとも下落局面に突入し、10月21日時点で日経平均は1万5000円を割っている。円安=株高という方程式が壊れたのだ。
主要国・地域の株価をドル建てと現地通貨建ての2つの指数で表示する「MSCI」株価指数の日本編と円の対ドル相場の推移を見ると、円建て株価指数は円安基調と並行してじりじりと上昇し、7月初めに比べたピーク(9月25日時点)の株価は5・5%上昇したが、ドル建てでみると逆に1・5%下回った。円安の度合いに比べ、円建て株価の上昇幅が少ないからだが、円建て指数とドル建て指数は日銀による異次元緩和が2013年4月4日に打ち出されて以来、ほぼ重なるようにして変動してきた。それが、今年8月中旬あたりから、かい離し始めた。そして9月末からは円建て、ドル建てとも下落基調に転じ、その後を追うように円安傾向が止まった。円高への局面変化は株を押し下げる。
異次元金融緩和は円安誘導し、株高につなげて、消費者心理を好転させる狙いがある。物価は上昇し、名目ゼロ金利からインフレ率を差し引いた実質金利がマイナスになる。すると、消費者や企業はカネを貯めずに消費したり、設備や株式などに投資するので、実体景気は好転、株価も上昇を続けるというシナリオを日銀や安倍首相周辺の「リフレ派」は描いていた。筆者もその筋書きそのものは支持してきたが、金融緩和による円安の景気押し上げには限度があると、みなしていた。2001年3月から06年3月までの日銀による量的緩和期では円安で輸出を増やし、株価も上がったが、デフレ基調は続き、物価の下落以上に賃金が下がる。つまり実質賃金は下落し続けていた。民間設備投資の回復もほんの一時期に終わった。金融緩和策は有効に違いないが、それだけでは慢性デフレからの脱出は不可能だ。
慢性デフレのきっかけは、1997年4月からの消費税増税だった。今回、消費税増税に踏み切れば「アベノミクスは殺される」と筆者は拙著などで警告したが、安倍晋三首相が信頼を寄せる黒田東彦日銀総裁は「異次元緩和があるので、増税しても景気は回復基調を続ける」と進言した。首相はそこで今年4月から消費税率を8%に引き上げたが、結果は無残である。円安は株価を浮揚させられず、実質賃金を押し下げ、それに消費税増税が追い打ちをかける。安倍首相が12月に、来年10月からの再増税を見送ったとしても、アベノミクスは効能を取り戻せるか疑問である。消費税率を5%に戻せないなら、中間層以下への所得税減税も検討すべきだ。何よりも必要なのは政治の危機感だ。
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