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2014-10-28 00:00
消費税増税災禍、最大の被害者は現役世代
田村 秀男
ジャーナリスト
来年10月からの消費税率再引き上げ論議が国会で始まったが、その前に、総括すべきは、今年4月の増税による惨憺たる結果である。中でも、憂慮すべきは下降に加速がかかった実質賃金動向である。アベノミクスがめざす「脱デフレ」とは、単に物価を2%まで引き上げるという日銀の「インフレ目標」達成にあるわけではない。物価の上昇率を上回る幅で名目賃金を継続的に引き上げて、消費需要を増やして景気の好循環を作り出すことだ。何しろ、「15年デフレ」は、物価の下落を上回る速度で賃金が下がり続けてきた。そのトレンドを逆転させようと、安倍晋三首相は産業界に賃上げを働き掛けてきた。
円の対ドル相場と、物価の変動分を加味した実質賃金の指数を、リーマン・ショックが起きた2008年9月を100として追うと、アベノミクスが始まる12年12月までの特徴は、円安局面ではわずかながらでも実質賃金が上向くが、円高局面では実質賃金が大きく落ち込む点だ。全体としては、1997年4月の消費税率引き上げ(3%から5%へ)以降、実質賃金が下落トレンドにあり、今年4月の税率8%へのアップ以降、下落速度に加速がかかった。
もう一つ、アベノミクス「第1の矢」である日銀の異次元金融緩和で円安局面に反転したのだが、円安にもかかわらず実質賃金が下落しており、円安=賃金アップという定理が消えてしまった。円安効果で輸入コストが上がって消費者物価上昇率が1%以上上がったのだが、名目賃金は上がらないので、実質賃金はむしろ押し下げられた。4月には春闘で1%程度のベアは実現したのだが、消費税増税分の価格転嫁で消費者物価は2%程度、円安効果と合わせて3%台半ばまで上がった。実質賃金の急降下はこうして始まった。消費税増税でこうなることは、97年度増税や昨年の実質賃金の下落気味のトレンドからみても明らかに予想されたはずなのに、政府も民間エコノミストの多くも楽観視してきた。その根拠は、円安に伴う企業収益アップや株高などアベノミクス効果に対する過信としか言いようがないのだが、円安は物価だけを上げさせ、賃上げには結びつかない。
株高が家計消費を押し上げる効果は乏しいうえに、外国人投資家は上がれば、機を見て売り逃げるので、上昇基調は突如打ち切られ、瞬く間に下落局面に転じる。円安は即座に物価を押し上げるが、景気を拡大させるまでにはかなり時間がかかるのだ。安倍首相は、アベノミクスが消費需要、賃金・雇用の拡大サイクルを生み出すまで8%への消費税率アップを延期すべきだった、というのが、とりあえずの教訓のはずだ。1年前、安倍首相に予定通りの増税を進言して、アベノミクスを壊してしまったのに、さらに増税せよと迫る官僚、政治家、御用学者が跋扈するこの国はいったいどうなっているのか。
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