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2014-10-22 00:00
ダブル辞任で菅のダメージコントロールが光った
杉浦 正章
政治評論家
10月20日昼前後までダブル辞任を見抜けなかった政治記者のていたらくはどうしようもない。筆者が同日朝、見出しにまで取って「松島も『自発的辞任』でドミノ倒し回避を」と「自発的辞任」を示唆してやっているのに、動かなかった。もっとも筆者の情報筋は18日の段階だが「辞任の動きはあるが、松島がごねている」と付け加えたので「簡単には辞めないだろう」と書いてしまったのは失敗だった。しかし「松島辞任」にかすったことはかすった。かすらなかった政治記者の慌てぶりは、嬉しくなるほど見物(みもの)であった。20日夕刊の紙面を見れば歴然としている。夕刊早版の段階では読売も毎日も見出しは「小淵辞任」一本であった。辛うじて朝日が「松下法相も辞任意向」という中見出しと、リード部分に短い記事を突っ込めただけ。各社とも最終版ぎりぎりの慌てぶりが目に浮かぶようであった。各社は本来なら「ダブル辞任」を見出しに取るべきところを「小淵辞任」と「松島辞任」と別々の見出しを取っている。
検証すれば、官房長官・菅義偉が全てを司っていたことに気付かなかったことが問題だ。官邸キャップも官房長官番も坊主になった方がよい。全ては菅の極秘裏のダメージコントロールの見事さにあった。要するに、不祥事問題の危機管理はいかに新聞紙面と、テレビの放映時間を短縮できるかにある。一過性の問題にとどめられるかどうかであった。結果的に見れば、21日朝刊は見出しが躍ったが、“袋叩き”は朝刊だけで治まった。夕刊は読売が「首相信頼回復に動く」、毎日が「政権、立て直しに全力」で、政権への配慮に軸足を戻した。民放の報道番組も安倍の電撃ダブル辞任処理に驚きの声を上げるトーンに変わった。
政府筋によれば「週刊新潮」の動きを官邸がキャッチしたのは11日の段階であった。16日の発売に先駆けること5日前であった。安倍はミラノで開催のアジア欧州会議(ASEM)首脳会議に15日に出発したが、既にその内容の詳細が耳に入っていた。安倍は金額の大きさなどその内容から見て、菅に「辞任やむなし」の方向での処理を指示した。さらに安倍は小淵の辞任に加えて松島も辞任させる方向での調整を指示した。菅は17日(金)の夜都内のホテルでひそかに小渕優子と会談して、辞任しか方策がないことを知らせ、小淵もやむなしの最終判断に到った。18日に安部が帰国。安倍は直ちに内閣調査室に上川洋子、宮沢洋一ら後任候補の身体検査を指示した。翌19日(日)には小淵の所属する額賀派会長の額賀福志郎と六本木のグランドハイアット東京で会談した可能性が高い。安倍の日程は運動のためと称しているが、額賀が目撃されている。安倍はホテルには3時間滞在しており、自民党内に波風を起こさないために額賀に根回しした可能性が高い。
一方で菅は直接間接に松島に辞任を迫ったが、こちらはごねにごねた。この間法務省幹部の間では法相が刑事告発されれば、省内に示しがつかないという懸念が強まった。中には、このまま放置すれば松島が独自に指揮権を発動して、検察の動きを抑えかねないとする危惧の声まで生じた。指揮権発動となれば造船疑獄以来のことであり、そうなれば内閣自体が持たなくなり「うちわ解散」に追い込まれる事態が生ずると言ってよい。松島説得工作は本格化し、19日になってようやく、首を縦に振らせることに成功したのだ。安倍や菅は問題が「うちわ」にはなく、松島の閣僚としての資質にあることを見抜いていた。それはそうだろう。予算委での答弁を聞けば、あまりのとんちんかんぶりと方向感覚の欠如ぶりに誰でも驚く。まるで何も知らない長屋のおばさんぶりを露呈したのだ。小淵を切った後、今度は松島問題をずるずると引きずれば、新聞、テレビへの露出量は増える一方であり、メディアの政権批判はとどまるところを知らない。野党はかさにかかる。こうして見事なる危機管理処理が実現して、ダブル辞任に到ったのだ。有終の美を飾ったのは、菅の首相日程処理であった。20日は皇后陛下の誕生日祝賀行事など日程行事が立て込んでおり、その合間を縫うように小淵の辞任受理、松島の辞任受理、後任の発表、インタビューまでを全てを見事に消化してしまった。予定された日程は全てこなした上での話である。いかに用意周到に菅が「仕組んだ」かが分かるものであった。
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