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2014-10-21 00:00
ほころび始めたオバマ大統領の対ISIS政策
川上 高司
拓殖大学教授
アメリカとトルコが、ひとつの街をめぐって鋭く対立している。トルコとシリアの国境沿いでシリア側に位置するその街はアイン・アル・アラブ、別名コバニと呼ばれる、シリアのクルド人たちの街である。その街が今、ISISの猛攻にさらされて陥落寸前の窮地に陥っている。ほとんどの住民は避難していて、3000人ほどのクルド人戦闘員が立て籠もって街を守っているが、包囲しているISISはおよそ9000人、街の北側はトルコとの国境で、トルコ軍が戦車を配置して監視しているため逃げることはできない。
この窮地にアメリカはコバニへの支援をトルコに要請するが、トルコは頑なに拒否し国境越しに監視するだけである。ISISとの闘いには多くの同盟国が参加しているが、それぞれの思惑があり自国の利害が優先する。必ずしもアメリカの思う通りにはならない。
トルコはアサド大統領が追放されることを望む一方で、クルド人が力を持つことは望んでいない。長年クルド人の過激派PKKに悩まされてきたトルコにとって「PKKとISISは同じ」(エルドガン首相)なのである。積極的にクルド人を支援する気はない。また、クルド人を支援すればISISの報復がトルコに向かうのは必至であり、トルコ内へのテロが波及するのはなんとしても避けたい。離れているアメリカとは事情が異なるのである。
アメリカは「大量虐殺が行われる危険がある」と人道的に訴えてトルコを動かそうとするが、トルコはトルコとシリアの国境への米軍の派兵を条件に出すなど厳しく両者は対立している。アメリカは派兵してクルド人を守るのか、見捨てるのかの選択を迫られている。ここ中東には、アメリカでさえも口をはさめない冷徹な地政学が存在する。オバマ大統領の対ISIS政策はすでにほころび始めているようだ。
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