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2014-10-17 00:00
尖閣、「解決しない解決」の方向強まる
杉浦 正章
政治評論家
日中首脳会談で焦点になる尖閣問題は、筆者が昨年夏から主張してきた「解決しない解決」、つまり「先送り」を基本とする流れが生じ始めたようだ。かねてから毎日新聞は外交に強い伝統があると感じてきたが、10月16日朝刊トップ記事はまさにその証明だ。要点は、日本側は首相・安倍晋三が中国国家主席・習近平に(1)尖閣は日本固有の領土である、(2)ただ、中国が独自の主張をしていることは承知している、(3)時間をかけ、対話による解決を目指す、と表明することで、膠着(こうちゃく)状況を打開できないか打診しているという。しかし、共同声明などの文書には残さない方針だという。要するに、これまで政府が主張してきた「尖閣諸島は日本固有の領土であり、日中両国間に領土問題は存在せず」、従って「棚上げ」はあり得ないという立場を事実上堅持する。しかし、問題を脇に置いて先送りし、経済、文化交流など日中友好を進めるというものだ。これは両国関係を、国交正常化を達成した72年の田中角栄・周恩来会談の原点に戻すということであろう。尖閣問題での膠着状態を打開するには、この道しかないのかもしれない。
先に書いたように、中国側は水面下の交渉でなお「尖閣問題の存在確認と棚上げ」に固執しているようだ。政府が棚上げを否定するのは、棚上げが尖閣問題の存在を示す「方向性」を表示してしまうからだ。中国はいったん棚に上げた物は、いつでも降ろせるという論理に結びつけようとしていると警戒するのだ。しかし歴史的にも「棚上げ」の言葉は使用されていない。「棚上げ」という言葉が出てきたのは、1978年の鄧小平・福田赳夫会談後の記者会見だ。この場で鄧小平は「棚上げ」と言うより「放っておく」と述べたのだ。通訳は「一時棚上げしても構わない。10年棚上げしても構いません。この時代の人間は知恵がたりません」と翻訳したが、鄧小平は四川なまりで「放っておく」を意味する「擺(バイ)」という言葉を使っている。これに先立つ外相・園田直訪中の際にも「擺在一遍(バイザイイービエン)(脇に放っておく)」と述べており、棚上げとはニュアンスを異にする。
この問題が首脳間で取り上げられたのは、1972年の田中・周恩来会談だが、会談で田中は、尖閣問題で何も提起しないと、帰国後に困難に遭遇するとして「今私がちょっと提起しておけば申し開きが出来る」と述べた。これに対して周が「もっともだ。現在アメリカもこれをあげつらおうとし、この問題を大きくしている」と差し障りのない対応をした。問題は最後の場面で田中が「よしこれ以上は話す必要がなくなった。またにしよう」と述べ、周恩来が「またにしよう。いくつかの問題は時の推移を待ってから話そう」と答えた。これに田中が「国交が正常化すればその他の問題は解決出来ると信ずる」と付け加えて終わったのだ。別に「棚上げ」で合意はしていない。それを中国側がまた蒸し返すのは鄧小平の「この時代の人間は知恵がたりません」の状態がまだ続いていることを物語っている。石油利権が目当てと言われても仕方がない対応であろう。そこで毎日の報道に戻れば、基本は鄧小平の「擺」であろう。脇に置くのだ。
2012年9月の尖閣国有化以来2年が経過したが、この間の中国側の出方は日本の「意思確認」と「軍事能力確認」である色彩が濃い。日本の領海に公船を出し、防空識別圏を設定し、レーダーを照射し、戦闘機を急接近させる。これに日本がどう対応するかを見たのだが、安倍の対応は中国側にとって「隙」を感じさせないものであった。米国と安全保障上の連携を強め、集団的自衛権の行使を閣議決定し、南沙諸島で同じ目にあっている東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国と共同歩調を取り、日豪関係を準軍事同盟の色彩を濃くした。日印関係も良好なものにした。まさに中国包囲網の様相を帯びたのだ。これでは、尖閣を武力で占拠することは不可能と習近平が感ずるに到ったとしても不思議ではない。加えて11月にその名誉がかかった国際会議・ASEAN首脳会議がある。中国はなお「棚上げ」に固執しているようだが、問題は政治解決しかないと理解すべきだ。外務省内にも、棚上げ論がある。かつての名外交官・栗山尚一は「国際的な紛争を解決する方法は三つ。外交交渉、司法的解決、解決しないことでの解決。最後の方法は棚上げとか先送りとか言えるだろうが、尖閣問題を沈静化させるにはこの方法しかない」と述べているではないか。「棚上げ」の言葉が嫌なら、ここは脇に置いて「擺=放っておく」のが1番いい。
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