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2014-10-09 00:00
米の大学で広がりを見せる「孔子学院」閉鎖の動き
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
10月6日付『読売新聞』は、米国の二つの大学(シカゴ大学とペンシルベニア州立大学)で、中国政府直轄の中国語・中国文化教育機関「孔子学院」との契約が打ち切られたことを報じ、そうした動きは2大学にとどまらないであろうとの、全米大学教授協会幹部の見通しを紹介している。「孔子学院」は、中国政府の教育部の下にある、「国家漢語国際推広領導小組弁公室」が管轄しており、表向きは、中国語・中国文化の教育や普及、友好関係の醸成などを謳っているが、中国によるプロパガンダ戦略を担うものである。そして、「孔子学院」は、それ自体が、設置された大学内で直接活動を行っている点が特異である。2009年には、政治局におけるプロパガンダのボス格の李長春が、「孔子学院」は、中国の海外におけるプロパガンダ機構の重要な一部である、と明言している。「孔子学院」は、わが国でも儒教の祖として歴史的に親しまれている孔子とは、何の関係もない。
米欧では、最近、急速に「孔子学院」への警戒感が高まっている。6月14日付ワシントン・ポスト(WP)紙、8月7日付ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、相次いで、米国の大学への「孔子学院」の浸透に警鐘を鳴らす社説を掲載した。WP社説は、「授業において、敏感な話題(民主化、チベット、台湾、法輪功など)を避ける訓練を北京で受けていた」という、学院の教員の証言を紹介し、中国政府は、孔子学院に関する雇用契約やカリキュラムの選択をコントロールしている、と指摘している。WSJ社説は、欧州中国研究協会の会合において、「孔子学院」の本部長が、気に入らない資料を、「中国の規制に反している」として強制的に回収し、中国の意に染まないページを破り去って返却したことを報じている。
もちろん、米欧側も、こういう振る舞いに黙ってはいない。欧州中国研究協会は、厳しく抗議し、資料の破却された部分を再印刷し再配布することを命じた。全米大学教授協会は、「孔子学院」を設置している100近い大学に対して、関係を再検討するよう要請している。カナダ・オンタリオ州のマクマスター大学は、「孔子学院」の教員が、契約上、法輪功への信仰を隠すことを要求されている、と証言したことを受け、昨年、「孔子学院」を閉鎖した。当初は、中国側の出資による、教員派遣、教材供給という「孔子学院」の運営形態は、低予算で、ニーズの高い中国語や中国文化についての教育・研究を可能にすると考えられ、急速に広まったのであろうが、今や、中国によるプロパガンダ戦略、思想統制の道具としての弊害が極めて大きいことが認識されるようになった。
日本の大学にも「孔子学院」が設置されている所があるので、決して他人事ではない。まずは、大学側の自主的取り組みが急務だが、必要があれば、政府と大学当局が協力して、思想の自由、学問の自由への侵害の実態を調査し、その結果次第で、閉鎖を含めた是正措置をとる必要がある。かつて、我が国の大学関係者は、大学の自治や学問の自由をヒステリックに強調し、国の介入に過敏に反発したが、今日の「孔子学院」を通じたプロパガンダ戦こそ、思想の自由、大学の自治への挑戦である。
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