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2014-10-08 00:00
政権内で増税延期派の巻き返しが急
杉浦 正章
政治評論家
基盤が強い政権は情報操作ができる。首相自身が発言せずに、側近や党幹部に発言させて様子を見るのだ。10%への消費増税で首相・安倍晋三が取っている戦術がこれだ。筆者は安倍の本心は増税延期に傾いていると推測している。今のところ正面から再増税の是非を聞かれれば中立を保っている。そのかわり側近が延期を声高に主張し始めた。一致して「1年半」の延期論だ。そして延期には政治的エネルギーが必要だが、維新の党が結果的に安倍への助け船になる「消費増税延期法案」を今国会に出す方針を固めたのだ。延期に向けて外堀を埋める作戦が着々と進んでいるかのようだ。正面から聞かずに、野党があの手この手で聞いた場合は安倍の発言も微妙なトーンの変化が見られる。安倍は「消費税引き上げで景気が悪化し、税収も増加しないという事態は絶対に避けなければならない」「目的は税率を上げることではなく税収を上げること」と述べている。税収が減ってはアベノミクスを直撃するという判断だ。「絶対に」という言葉は、安倍の心境を端的に物語っている。側近の発言でもっとも注目すべきが山本幸三。その次ぎに注目すべきが本田悦朗だ。両者とも期せずして「2017年4月までの1年半」延期論だ。何らかの調整なくして「1年半」というはんぱな数字が出ることはあり得ない。
安倍はこの二人を使って動かそうとしている。まず山本は知る人ぞ知る安倍のブレーンで、旧大蔵省出身の元副経済産業相。山本は、大胆な金融緩和や財政出動により、デフレ脱却、景気回復を目指す「リフレ派」の論客。自民党の野党時代に安倍に金融緩和の必要性を説き、政権を取った後アベノミクスの第一の矢である大胆な金融政策を実現させた。その山本は当初は10%への再増税を推進してきた。「先送りする理由はなく、早めに決断したほうが政府に対する信認が増す」と述べてきたが、ここにきて豹変した。10月2日の岸田派の会合で、「今の経済指標からみれば、予定通りやるのは無理だ。1年半くらい延ばしたほうがいい」と述べ、消費増税先送り論に転換したのだ。加えて山本は幹事長・谷垣禎一が「再増税は自明」とのべている事に対して「最終的に決断するのは首相だから、党幹部が増税は既定路線みたいなことを言うのは問題がある」と噛みついた。岸田派があえて山本の講演を聴いたこと自体が微妙な感じがする。外相・岸田文雄が安倍の心情を察知して、側面援助に出た感じが濃厚だからだ。山本の豹変の理由は4月以降の経済指標を見て「増税したらアベノミクスがつぶれる」と判断したからに他あるまい。
一方内閣官房参与・本田はウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、「アベノミクスと消費税率引き上げは逆向きの方向性を持った政策だ。本来思いっきりアクセルをふかしているときにブレーキをかけたらどうなるか。車は必ずスピンする」と警鐘を鳴らした。そして「ベストの選択肢は、10%への消費税率引き上げを当初予定より1年半先送りすることだろう」と述べた。山本が谷垣に噛みついたように本田は日銀総裁・黒田東彦を批判した。「日本銀行総裁には金融政策に専念してほしい。消費税をどのタイミングでどうするかは、政府の専権事項。政府にまかせてほしい」と発言したのだ。山本も本田も安倍が言いたくて仕方がないことをいみじくも代弁した形だ。黒田と安倍は二人三脚的であったが、黒田の再増税発言で安倍と黒田に隙間風が吹いているように見える。黒田は7日円安について「景気にむしろプラスだ」と強調したが、安倍は国会で円安の影響について「家計や中小・小規模事業者にはデメリットが出てきている」と発言した。外為市場では安倍と黒田の発言のズレに戸惑いが広がり、7日の東京市場で円相場が乱高下する結果を招いた。こうして山本と本田はまるで「安倍代弁派」を結成したかのような様相であり、今後自民党内に大きな影響を及ぼすだろう。山本は経済政策に関する議員連盟の会合を開き、党内根回しを本格化させる方針だ。
野党は既報のように「必殺政局マン」の小沢一郎が臨時国会終盤を安倍降ろしの政局化を狙って虎視眈々と動き始めた。小沢自身には動かす力はないが、野党の扇動に成功すれば話は別だ。おそらく小沢は、11月17日発表の7-9月のGDP速報値を見た上で動くのだろう。安倍は12月8日発表の改定値を見た上で決断することにしているが、小沢にとって仕掛けは臨時国会中でなければ難しい。こうした中で野党は維新が微妙な動きを開始した。10%への引き上げを延期する法案を今国会に提出する方針を固めたのだ。他の野党に共同提案を呼びかけるが、これは政府・与党がうまく対応すれば、与野党一致に持ち込める。いわば維新の方針は“助け船”になり得るうごきでもある。自民党は対応を巡って割れかねない側面があるが、谷垣は次善の策としての延期に踏み切るべきだ。延期法案は、絶好のチャンスになり得る。こうして消費増税推進派に対する延期派の巻き返しが徐々に勢いを増してくることが予想される。今のところ予定通り推進論の谷垣が、落としどころとしての延期にいつ傾くかが最大の見所だろう。
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