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2014-09-23 00:00
虚妄にすぎない日本国債暴落論
田村 秀男
ジャーナリスト
世界最大の純債権国、日本の国債は世界の投資家の逃避先なのだが、来年10月の消費税率10%への再引き上げ是非論議とともに国債暴落論がこれから盛り上がる気配である。暴落論を分類してみると、まずは終末予言スタイルで、代表例が元外資系銀行ディーラーで参議院議員の藤巻健史氏である。氏は今年6月出版の『迫り来る日本経済の崩壊』(幻冬舎)で、「日銀による国債購入の約束は今年の12月まで。買いをやめれば国債と円は暴落し、一気にハイパーインフレに!ドル資産を保有する者だけが生き延びる」と、いわばノアならぬ「ドルの箱船」に乗れと勧めている。『金融緩和で日本は破綻する』(ダイヤモンド社)と警告する野口悠紀雄一橋大学名誉教授は1、消費税率を10%に上げても、国債不安は解消しないとみる。
財務省はこれらの暴落論には同意しないが、便乗したい。「国債市場不安」をテコにして消費税増税論をあおりたい。日銀の異次元緩和で国債相場は上昇し、国債金利は下がり続けている。国債の利払い負担を減らせるので、金融緩和は大歓迎だ。しかし、日銀緩和だけでは市場に不安が残るので、消費税増税が欠かせないという論法である。その論理が、国債暴落の「テールリスク」論である。テールリスクとは、巨大隕石の地球への衝突のようにめったに起きないが、起きたら壊滅的な打撃を受けるという便法だ。日本国債について当てはめると、消費税増税を見送れば国債暴落リスクが高まる、という。昨年9月初めには伊藤元重東大教授が言い出して、黒田東彦日銀総裁が同調するに及び、安倍晋三首相に消費税増税を決断させる殺し文句になった。
安倍首相は周辺に、「増税しても税収が増えなければ意味がないじゃないか」と漏らしている。筆者はまさにこのポイントを以前から指摘してきたし、その論考は安倍首相の手元に届いているとも、首相周辺から聞いた。1997年度の消費税増税後、消費税収の増収分よりも法人税、所得税など他の基幹税収の減収額が大きかったために、増える社会保障関係費もまかなえず、財政収支が大きく悪化した事実は重い。財務官僚が事実上支配する内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」(7月25日付)で経済成長率1に対する一般会計税収の伸び率(税収弾性値)を1とし、消費税率を継続的に引き上げないと財政赤字膨張に歯止めがかからないというシナリオを首相に提示した。
ところが、これまでの実績では弾性値は3~4に達することが、内閣府の別の試算で証明されている。弾性値3とすれば、名目経済成長率2~3%を維持することで、財政均衡目標は達成できるのに、内閣府はそのデータを無視した。4月、消費税率8%を実施した結果、家計消費は戦後最大のレベルで落ち込んだ。脱デフレの希望は遠のきかねない。虚妄の国債暴落リスク論に、首相は二度とだまされないと信じたい。
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