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2006-10-30 00:00
地域共同体と危機管理-対北朝鮮経済制裁問題に見る-
舛島 貞
大学助教授
10月24日付け「CEACコラム」に掲載された白石隆氏の論説「地域秩序 再考のとき」は、北朝鮮問題に対する韓国の姿勢を問い、またタイのクーデターからその民主主義のゆくえについて、日韓台などとは異なるものになるのではないか、と述べている。他方、この2点の問題提起の前提として、北朝鮮の昨今の動静について、中国が北朝鮮に対してたいした影響力をもたないので、「限定的関与」から「限定的封じ込め」に移行しつつあると指摘、その「限定的」という修飾語が残る原因として日米と中韓露に共通合意がないからだとする。加えて、「それほど遠くない将来、北朝鮮の崩壊、統一韓国の政治的地位が東アジアの大きな国際的課題として浮かび上が」ることを予測している。
これらの提言も予測も、民主主義や人権を理念的なよりどころとし、また機能面に立脚した「東アジア共同体」を考える上で極めて重要だ。地域的な共同体を形成しようとする場合、そこには当然ものごとを秩序立てていく道具立てと、それを機能させていく経緯と実績、さらにはトラブルを解決しルールを徹底していく意思と行為が求められる。他方、クーデターや災害、そのほかの危機をいかに管理するかが重要となる。ASEANという組織は、それぞれの国家の主権や国のありかたを尊重しており、ある特定の国や地域の突発的問題を無条件に地域の問題として位置づけ解決しようとはしない。ここは相当に要請主義的なところもあるし、政治的、安全保障的な危機管理を強く想定した共同体ではない、ということでもある。
今回の国連安保理決議による北朝鮮への制裁事項はこの東アジア地域全体に適用された。シンガポールやインドネシアをはじめ、北朝鮮と国交を有する国が少なくないこの地域で、この問題への対処がどのように展開されるのだろう。こうした問題を考えるとき、また同時に将来的に地域秩序を形成することを考えたとき、今回のケースをめぐり2つ気になったことがあった。第1に、今回のような問題について、「東アジア共同体」は直ちに声明を発したり、アクションをおこしたりするような場ではないということである。これはASEAN自体がそういう場であったことからもうかがえるが、構想されているのが限定的な「共同体」であることをあらためて知ることができるであろう。
第2に、これは問題として提起したいのだが、日米と中韓露のみならず、諸国の対応が相当まちまちであり、そのうち標準化されるべき部分とそうでない個別の部分の弁別が、特にメディアにおいてなされていないということである。今回の場合、国連安保理決議1718号「Security Council Condemns Nuclear Test by Democratic People's Republic of Korea, Unanimously Adopting Resolution 1718 (2006)」による、「Action Prevents Provision of Nuclear Technology, Large-Scale Weapons, Luxury Goods to Country; Permits Inspection of Cargo to Ensure Compliance」が、全体として決められ、多くの国が受け入れたこと、つまり標準化された部分である。国連のウェブサイトからこの内容を見ればわかるとおり(あるいは題名を見れば明白だが)、この決定は決して通常の北朝鮮との貿易を抑制するものでもないし、経済援助を停止させるものでもない。無論、日本のようにこれに+アルファをするのも自由だが、自らが+アルファした部分と、標準の間の相違は明確にしなければならない。ちなみに、中国では四大銀行における北朝鮮との取引停止のほか、北朝鮮から中国に来ている労働者のビザ延長停止という「+アルファ」をおこなっている。
この弁別こそが、多様な存在を包摂しつつ共通の地平を創出するという、地域秩序形成の上でもっとも重要な点の1つだと筆者は考える。今回の北朝鮮問題を見る限り、この点での習熟度は東アジアでは決して高いわけではないし、日本でもそのように感じる。白石氏が述べている合意形成の問題も確かに大きいのだが、合意形成後、合意と単独措置の部分が弁別できなければ、地域のガバナンスと一国単位の外交だけでなく、外交と内政の論理が錯綜し、その合意そのものが崩れていくことになろう。
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