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2014-09-08 00:00
オバマ大統領の資質が問われているイラク空爆
川上 高司
拓殖大学教授
アメリカは、イラク北部のクルド人自治区で攻勢を強めるISISに対して空爆を実施した。空爆とほぼ同時期にイラク大統領は新しい首相を指名、マリキ首相は辞任に追い込まれた。かねてからアメリカ政府はマリキ首相に退陣を要求していたが、マリキ首相はそれを拒否し続けていたものの新しい首相指名を受けて退陣を受け入れた。クルド人自治区の軍であるペシュメルガとISISはモスル北部のダムの支配を巡って争っていたが、米軍の空爆支援によってクルド人がダムを掌握した。だがいくつかの街ではクルド人とアラブ系イラク人との対立が深まっている。クルド人から見れば地元のアラブ系イラク人はISISに対して密かに支援をしているというのだ。同じスンニ派であるとしてもここでは民族間対立に発展しかねない危機が高まっている。
一方イラクとの国境をはさんだシリア側では、シリア反政府軍はシリア内のISISに対して空爆するようにアメリカに要求を始めた。数ヶ月前にはシリア反政府軍はアサド政府軍に対する空爆を要請して却下されていたが、いまでは彼らの敵はISISとなっているようである。だがイラクと異なりアメリカがシリア領土内を空爆することは困難である。
ISISにしてみれば、イラクで空爆されればシリアに逃れシリアで空爆されればイラクへ逃れるだけのことであり空爆は根本的な解決にはほど遠い。むしろISISは反米感情を煽ってジハードを宣伝しやすくなるだけであり、空爆の効果はほとんどないとも言われている。EUはクルド人自治区への軍事支援を各国の判断に委ねることとし、事実上軍事支援にゴーサインを出した。フランスはすでに支援物資を送り、イギリスは準備段階に入っている。ドイツは紛争地域への軍事支援は禁止されているためおそらく支援には消極的であろう。オーストリアは支援はしないと表明しており対応は分かれている。
アメリカでは、7月の世論調査では55%がイラクに関与すべきでないと考えている。ようやく撤退して長い戦争が終結したのに、再び戻ることはありえないというのが民意である。今回イラクを空爆したオバマ大統領は、その世論を受けて今後どのように関与するのかあるいは関与しないのか。イラク戦争に反対して大統領に当選しノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領の資質が問われている。
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