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2014-08-29 00:00
欧米がリビアにもたらしたものは混乱と悲劇である
川上 高司
拓殖大学教授
3年前の2011年、イギリス、フランス、アメリカを中心として、NATOはリビアの反政府勢力を支援するべく空爆を実施した。そして権力の座にあったカダフィは追い詰められ排除された。ところがその1年後には、当時の外交官だったスティーブンス氏が武装勢力によって殺害される悲劇が起こった。2014年7月27日、アメリカの大使館は閉鎖を決定し大使館関係者はトリポリの国際空港からチュニジアへ向けて脱出した。
脱出時、国際空港の上空は米軍機が旋回して武装勢力を威嚇したため無事脱出できた。イギリス大使館関係者は陸路を選択して脱出を試みたが、武装勢力に襲われて命からがらの逃避行となった。国連も事務所を閉鎖、ヨーロッパ各国は自国民に対してリビアからの即刻退去を求めている。それほどまでにリビアの状況は悪化している。NATOの空爆の後、権力と富をめぐる武装グループの抗争は激しさを増し、政治家は殺害され外交官は誘拐の標的となり市民も命を狙われ、水も電力も供給されずリビアはもはや国家として機能していない。
リビアに「アラブの風」が吹き始めると 反カダフィの闘争のために欧米諸国はこぞって反政府グループを支援した。やがてその支援を奪い合って反政府グループ同士で抗争が始まった。民主化は順調に進んだように見えたが、実は核となる強い政府が不在だった。そのためいくつかの民兵組織の力が強まり、そこかしこの地方の勢力や実力者と結びついて権力をもつようになり、彼らは権力闘争に明け暮れている。
彼らには石油の収入があるので資金には不自由しておらず、欧米の支援に頼る必要がない。シリアの内戦では反政府側に対して支援をしている欧米の影響力が強いが、リビアでは欧米の影響力はほとんどない。資金が豊富なので闘争に終わりがなくエスカレートするばかりである。3年前の欧米の力による体制の変更がリビアにもたらしたものは、さらなる混乱と悲劇だった。シリアとは異なり、ほとんど国際社会の関心がないがリビアもまた内戦に苦しんでいるのである。
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