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2006-10-23 00:00
FTA推進には産業政策への目配りも必要
村上正泰
日本国際フォーラム主任研究員
アジア地域においては、市場主導による事実上の経済統合が進んできた。多国籍企業による貿易と直接投資が相互依存的に拡大するなか、域内で国境を越えた生産ネットワークが形成されている。こうした流れを制度的に一段と推し進める原動力として、FTA(自由貿易協定)に大きな期待が寄せられている。FTAの必要性は非常に高まっており、我が国も積極的に推進していかなければならない。我が国だけ取り残されることは大きな損失であり、これまで十分な成果をあげていない状況下にあっては、まずはFTAの重要性を説く必要があることは言うまでもない。しかしながら、同時に、FTAの推進に際しては、国内における産業政策の積み重ねも必要となることに留意しておかなければならない。
現在の我が国において中国などの外需拡大による好況という恩恵を享受している産業がある一方、価格競争力を喪失して空洞化が進むなかで景気回復を実感できない産業もあるという事実に端的にあらわれているように、国際貿易はそれぞれの国内で産業ごとに異なった影響を及ぼす。この点について、経済学においては、比較優位論の立場から、各国には生産要素賦存度や生産性の差があり、自国は相対的に有利に立つ産業に特化し、不利な産業については貿易相手国からの輸入に頼れば、経済厚生は向上するという議論がなされる。現実の経済はこうした単純なモデルが想定するほど一様でも柔軟でもないが、いずれにしても貿易の拡大は国内経済の分断を伴うものとなる。
したがって、FTAを推進していくに当たっては、各国においてどのような産業政策を展開していくかという国内政策の視点も必要となる。逆に言えば、近年、地方経済の疲弊ということが言われ、それにはさまざまな要因があるが、単にローカルな視点からのみ考えるのではなく、グローバルにも捉えていかなければならない問題である。すなわち、アジアとの地域統合という視点を踏まえながら、それぞれの産業でどのように構造調整や技術開発を進めていくかを考えていく必要がある。
また、それらをアジア地域全体として見た場合に、いかにバランスの取れた経済発展の仕組みが各国間で形成されるかについても考えていかなければならない。アジア地域には、発展段階の差異に解消しきれない経済制度面での多様性が存在しており、単にFTAのネットワークを拡大して市場競争に任せさえすればよいということにはならない。FTAをいかに形成していくかは各国の経済社会システムのあり方を踏まえて検討しなければならないし、その際には、産業政策の国際協調も不可欠となる。FTAと直接の関係はないものの、9月17日の読売新聞朝刊が報じた「中国に鉄生産縮小を要求…政府、値崩れ懸念」といった動きは、こうした文脈で理解されるべきである。
もちろん、産業政策が単なる保護政策となり、非効率を温存するだけの隠れ蓑になってはならないが、FTAを推進していくうえでは、産業政策のあり方にも十分な目を向ける必要があろう。
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