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2014-07-22 00:00
小沢の“仕掛け”は、蟷螂(とうろう)の斧
杉浦 正章
政治評論家
政局の人小沢一郎がいよいよ“仕掛け”に取りかかった。安倍政権を「ピークは過ぎた」と批判したのに引き続き、7月20日は「再び政権交代を果たすことは夢物語ではない」と野党の結束を訴えた。舞台裏では野党各党の若手議員らに働きかけると同時に、参院民主党のドン輿石東を使って「海江田・小沢会談」を画策、実現しそうな雲行きだ。しかし、政権交代という“回天の大事業”を可能とするには、政界に根強い“小沢アレルギー”を払しょくするのが先決。自民党幹部は「昔の名前で出てくれてもなぁ」と、その唐突さにあきれている。小沢は親しい知り合いらに今年初め頃から「消費増税を国民が肌身に感じた頃から政治は動く」と述べ、その時期が夏になることを予言していた。一連の発言はその予言通りに“仕掛け”を宣言したことになる。20日に行われた自身が主宰する「小沢一郎政治塾」の夏季集中講義で「再び政権交代を果たすことは夢物語ではなく、野党各党が意識を共有して力を合わせれば、次の衆議院選挙で必ず、自民・公明両党に代わって、政権を担えると確信している」とぶち上げた。その政権交代のとっかかりについて、小沢は「日中関係は、政治、経済、あらゆる面で異常な状態にあり、放っておくわけにはいかないが、今の安倍政権では打開の道はない。日韓関係も同じだ。さらに、雇用政策では、非正規雇用を拡大するような方針を示していて、本質的に許容できない」と強調した。
要するに日中・日韓関係は異常であり、雇用政策も許せないと、外交・安保、雇用で政権を揺さぶる姿勢を鮮明にしたのだ。「この指とまれ」というわけだが、この主張が政界はもちろん、国民に通ずるようなテーマだろうか。世論調査を見ても国民の中国や韓国への反発は圧倒的であり、首相・安倍晋三による中国封じ込め外交と安保路線は支持されている。アベノミクスの成功で景気が好転、有効求人倍率が22年ぶりに1.09という高水準に達しており、小沢が作った民主党政権時代の雇用政策とは比べるべくもない。景気回復の指数は堅調といえ、今のところアベノミクスがはじける可能性は少ない。支持率も50%前後と高い。小沢は急所を突き得ていないのである。そもそも外交・安保で政権を揺さぶるのは昔からタブーとされており、小沢はその邪道にあえて踏み込もうとしており、同調者が多く出る可能性は少ない。
それでは、小沢の“仕掛け”を政界再編戦略からみた場合に、勝算があるかだ。小沢の政権獲得戦略は例によって選挙対策が先行する。小沢が若手議員らに述べている戦略を分析すると、最大の狙いは衆院選に向けて候補者を調整することにある。野党統一候補を実現して、自民党と対決の構図を作り出すのだ。その手段として小沢は、野党を民主党中心のグループと日本維新の会中心のグループのような、二つのグループに再編することを考えているようだ。その上で候補を1人に絞れば「小選挙区制だから、風次第で衆院選に勝って、政権交代は実現しうる」というのが胸算用だ。このため小沢は舞台裏で小政党対策と民主党対策の両面で活発な動きを見せ始めている。まず小沢は、維新、みんな、結いの各党の若手議員らとの会食を進め、同調者を募る戦術に出ている。若手議員らは小沢から“政治”の話を聞くことが結構楽しいらしく、評判も悪くない。しかし逆に、幹部らの小沢アレルギーは極めて根強い。その突破口として小沢が狙っているのが、民主党左派の抱き込みだ。左派の基盤の上に立つ海江田万里は、小沢が参院のドン輿石東と結託して担ぎ上げて代表とした経緯があり、いわば小沢の影響下である。輿石は前原誠司らの「海江田降ろし」を真っ向から批判し、腹心の郡司彰を参院議員会長に無投票再選させるなど、依然参院で院政を敷く力を持っている。
小沢は輿石とたびたび会っていると言われ、この輿石・海江田ルートを使って民主党抱き込みを図る構えだ。そこで出てきているのが「小沢・海江田会談」実現だ。既に幹事長・大畠章宏も来春の統一地方選や来秋の岩手県議選に向けて生活の党との選挙協力を推進したい意向を表明している。小沢が6月に「民主党を始め同じ志の政党や会派と連携して県議選で過半数を得たい」と述べたのに、大畠は「大事なことだ。今後どういう風にしていくか。環境が整えば党首同士が話し合うことになる」と公言、呼応している。これが意味するものは、小沢が民主党との関係樹立に向けて突破口を開きつつあることだ。小沢・海江田会談は秘密裏に行われるか、公に行われるかは別として、実現の流れにある。小沢は民主党が政権を取る前に「最後のご奉公」と言明して政権獲得を実現させたが、今回も「最後のご奉公はまだ続いている」とうそぶいている。意気盛んだが、国民の本音は「民主党政権だけはもうこりごり」という線に「完全定着」しており、「小沢さんの再編構想は勇ましいが、蟷螂(とうろう)の斧の感じ」(自民党幹部)が強い。広辞苑によれば蟷螂の斧とは「弱小のものが自分の力量もわきまえずに強敵に向かうことのたとえ」とある。代表をやっている生活の党は、衆参会わせてたったの9人。
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