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2014-07-11 00:00
習の「新型大国関係」は事実上破たんした
杉浦 正章
政治評論家
中国国家主席・習近平が提唱する「新型大国関係」とは「米中両国が厳しく対峙する新たな関係」ということかと思えてきた。2日間にわたって北京で開かれた米中戦略・経済対話は、米国と中国が「新型」という「同床」で「異なる夢」を見ている姿が浮き彫りとなった。1979年の米中国交樹立以来最悪の関係ともいえる。背景には東・南シナ海での海洋進出、防空識別権の敷設、対米サイバー攻撃など、中国の傍若無人ともいえる振る舞いがあり、これに対する米国のいら立ちが正面切って衝突したとも言える。会談に先立って米側は「中国がもっとも嫌う問題でもどんどん提起する」(米外交筋)と意気込んでいたようだが、その通りの展開になった。国務長官・ケリーはサイバー攻撃の問題について、国際会議では珍しい「盗む」という表現まで使って中国側を非難した。「インターネットを通じて企業情報が盗まれたことは大きな問題だ。革新や投資の意欲を削ぐ」と強調したのだ。米国は5月には捜査当局が人民解放軍の現役将校らをハッキング容疑で起訴するという異例の対応に踏み切っており、その怒りを生の言葉でぶつけた形である。中国は臆面もなく反論して、事実上物別れとなった。加えてケリーは「習主席は“新しい形の大国同志の関係”という言葉を何度も繰り返したが、新しい形の関係は言葉ではなく、行動によって示されるものだ」とねじ込んだ。
習近平が9回にもわたって繰り返した「新型大国関係」に対しての米国の広報活動は鮮やかであった。習近平の演説が終わったころを見計らって、ホワイトハウスは大統領・オバマの声明を発表したのだ。当然マスコミは習の一方的な主張を報ずるだけでなく、オバマの主張も報ずるから、報道は会談にオバマが参加しているような効果となる。そこで際立ったのが「新型大国関係」をめぐる主張の違いである。オバマは習の「新型大国関係」という言葉はあえて使わず、「新たな形」という表現に徹した。両者の主張の違いを、習と米首脳の発言から分析すると、次のようになる。まず習は昨年の訪米で主張したとおり「太平洋は両国を受け入れるのに十分な空間がある」として、米中による太平洋2分割論を提唱した。簡単に言えば「米国はハワイより先に出てくるな」ということだ。そして「中国と米国が対抗すれば、世界の災いとなる」として領有権問題などでの米国の介入をけん制している。これは習が5月に主張した「アジアの安全はアジアで解決出来る」と米国の介入を排除した「新安全保障観」に結びつくものである。要するに、チベット・ウイグルや、東・南シナ海の問題に口を出すな、という「大国関係」なのだ。
これに対してオバマの「新たな形」は、国際法と国際規範に従って法と秩序を守る大国関係であり、中国の覇権主義に待ったをかけるものである。ケリーは「習氏が何度も大国関係の新しい形について話すのを聞いた。だが新しい形とは、言葉ではなく、行動によって定義される」と真っ向からけん制している。米中は「新型大国関係」をめぐって、全く異なる構想をあらわにした形となった。もちろんこうした対峙の構図は両国とも、事前に予期した上での発言であり、とりわけ習の発言は国内と海外をにらんだプロパガンダの色彩が濃厚ともいえる。国務委員・楊潔篪(ヤンチエチー)が「領土問題では一切妥協しない。米国が一方に肩入れしないことを要求する」と述べている通り、妥協をすれば習体制が国内的にも影響を受けることになりかねないのだ。もともと米国が新型大国関係の構想に乗って来るとは期待していないのだ。習としては南シナ海などで既成事実をどんどん積み重ねていくための、時間稼ぎの方便として「新型大国関係」を主張しているのに過ぎないのだ。そのためには対中軍事同盟の強化はなんとしてでも阻止したいのが本音だ。
逆に米国は、日本、オーストラリア、フィリピンなどの同盟国との絆を強め、中国との対峙を鮮明にする構えだ。ケリーは習の新安保観に反論して「米国は太平洋国家であり、日本やフィリピンなどとの同盟に深く関与してゆく」と明言した。しかし、米国はウクライナ、イラク、東・南シナ海と多正面作戦を強いられている形であり、アジアへのリバランス(再均衡)とはいえ、武力衝突への発展は極力避ける方針に変わりはない。ケリーがリバランスを説明して「中国封じ込めの意図はない」と述べたのは、当面「抑止強化」でいくということだ。米国にしてみれば日本が集団的自衛権の行使に踏み切る方針であり、これに基づき年末には日米間で日米防衛協力のための指針も強化出来る。豪州への海兵隊展開も進んでおり、日豪間も対中準軍事同盟の色彩を濃厚としている。東南アジア諸国も総じて中国の覇権に対する警戒心が強い。実態は「中国封じ込め」はしないのではなく「する」のである。こうして6回目にして米中戦略・経済対話は、協調から対峙へと大きく変質した。習は11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)を主催するに当たって、日米豪の離反を際立たせない方策を模索せざるを得ない状況に追い込まれつつある。
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