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2014-07-08 00:00
支持率低下に安保・防衛バネが利く
杉浦 正章
政治評論家
一部マスコミが内閣支持率が50%を割ったことをとらえて「政府・与党に衝撃」(読売)とセンセーショナルな報道をしているが、事の本質をとらえていない。「衝撃」などは「20%割れ」で使う言葉だ。集団的自衛権の行使容認をめぐって多くの新聞テレビが「日本が戦争をする国になる」などと、「ありえない風評」合戦で安倍政権を袋叩きにしたのに、まだ50%前後の支持率を維持している事の方が“奇跡”である。中国の臆面もない覇権路線で集団的自衛権に象徴される安保・防衛上の抑止力の必要は、今後強まる一方であり、多くの国民が冷静に政権の支持を判断している証拠である。いわば安保防衛バネが首相・安倍晋三に対して利いているのであり、長期政権の流れは変わらないだろう。顔面蒼白なのは朝日の編集者であろう。なんと内閣支持率が微増しているのだ。6月に43%であったものが集団的自衛権の行使を閣議決定した7月には44%になっているのだ。あれだけ叩いたのに、こんなはずではなかったと思っているに違いない。日経の調査も53%で横ばい。一方で読売が9ポイント下落の48%、NHKが4ポイント下落の52%だ。世論調査は聞き方が大きく結果を左右するから差が出て当然だが、それでもNHKと日経で50%台を維持しているのは驚く。
調査結果で注目すべきは、自民党支持が減少した分が野党に回らず、無党派層に移行していることだ。日経の調査では自民党支持率が初めて4割台を切って36%となり、無党派層が39%から44%になった。NHKでも自民党が41.4%から36.9に減り、無党派層が37.2%から42.4%に増えた。大まかに見て自民党が減った分が無党派層に回る傾向を見せている。ということは、野党には支持率が回っていないことを意味する。合計80%前後の回答が、自民党と浮動層の間を行き来して、一強多弱の勢力地図を形成しているのだ。これが意味するものは国民の間で、民主党政権の体たらくへの“こりごり感”がいまだに続いているのだ。有り体に言えば、政権が周辺国になめられることへの屈辱感が、安倍政権へのバネになっているのだ。尖閣の漁船衝突事件での船長釈放、ロシア大統領の北方領土上陸、韓国大統領の竹島上陸など、日本が弱いと見れば、その分進出するのが周辺国であり、民主党政権はなすすべもなく“傍観”を決め込んだ。内閣支持率の低下について民主党幹事長の大畠章宏は「国として大きな方針を転換する手続きに瑕疵(かし)があったと言わざるをえない」と述べ、政府・与党を批判したが、自らの支持率が5%前後と低迷の極みであることの瑕疵を棚上げしてはいけない。
野党は維新も橋下徹の人気が地に落ち、みんなは再び分裂の危機。石原慎太郎も新党の党首になる気はない。野党は国政選挙大敗の脳しんとう状態が依然継続しているのであり、予見しうる将来この流れが変わる気配はない。89年の参院選挙で与野党逆転を達成、社会党委員長土井たか子をして「山が動いた」と語らしめたのは有名だが、土井のようなリーダーが今の野党に現れる気配は皆無だ。民主党内も海江田万里が代表を続ける限り党勢が拡大することはない。そうかといって党内右派も勢いが出ない。山は動きそうもないのだ。要するに一強多弱の政界地図は、当分変化する気配はないのだ。昨年首相・安倍晋三が秘密保護法を成立させたあとも、支持率は一時的に50%を割ったが、すぐに回復している。その最大の原因は隣の国に中国国家主席・習近平と韓国大統領・朴槿恵がいて、安倍の支持率をどんどん上げてくれているからだ。習は7月7日も盧溝橋事件から77年の式典で口を極めて日本を批判、「今も少数の者が歴史の事実を無視しようとしているが、歴史をねじ曲げようとする者を中国と各国の人民は決して認めない」と安倍を批判した。これは「南・東シナ海で自分が現在やっていることを棚に上げて、ぬけぬけといえるものだ」という国民の感情をかき立てる。言いつけ外交を再開した朴槿恵の、慰安婦発言もとどまるところを知らないが、聞き飽きた日本国民は不毛の歴史認識にいちいち反省などしない。逆に反発するのだ。
従ってこれらの歴史認識からの日本攻撃は、これに対峙するだけで安倍の支持率を上げる役割を果たす。今後来年の戦勝70周年に向けて、中韓両国の対日批判のボルテージは上がるだろうが、ボルテージが上がるほど支持率が上がるという奇妙な現象を安倍にもたらすのだ。加えて安倍の積極外交は、東南アジア、豪州などの主要国の共感を呼んでおり、日米同盟の深化もあって、対中封じ込めは事実上成功しつつある。今後、秋には原発再稼働、11月には沖縄知事選、消費税再引き上げかどうかの判断、年末には日米防衛協力の指針(ガイドライン)改訂など重要課題がひしめいている。しかし原発再稼働は、何度国政選挙をやっても自民党が圧勝して、もう勝負がついている。マスコミや野党はガイドラインを集団的自衛権関連法案が成立する前に改訂する問題を取り上げようとしているが、これは日米で法案成立後に効力を持たせる合意をすればよいことで、何ら支障はない。最大の問題は消費税再引き上げだが、1政権で2度も大増税をやったためしは過去にない。過去は1回で政権が倒れている。こればかりはやめた方がよい。安倍が集団的自衛権関係法案の処理を来年の通常国会に回したことは、政局と密接に絡む。集団的自衛権の行使の重要性を国民に周知徹底できれば、通常国会末の解散断行も視野に入れられるからだ。総選挙以来2年半も経過すれば、政局は“解散年齢”に到達する。大きな流れは再来年の衆参ダブル選挙だが、安倍が来年勝負に出る可能性も否定出来ない。
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