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2014-07-02 00:00
株高頼みの米景気回復の不安
田村 秀男
ジャーナリスト
2001年8月、米中枢同時テロ「9・11」よりひと月前、ニューヨーク・ウォール街で旧知の米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン議長(当時)の側近に会った。情報技術(IT)株バブルが崩壊し、不況のさなかだった。「どうする?」と聞くと、「大丈夫さ。株がダメなら、住宅がある。グリーンスパンは住宅市場にてこ入れして個人消費を喚起させるつもりだ」と答えた。その言葉の通り、FRBは住宅ローン証券化商品を中心に金融市場をてこ入れし、住宅需要をもり立て、景気拡大につなげた。ところが住宅バブルが膨張した揚げ句に、08年9月にはリーマン・ショックとなって世界を巻き込んだ。
FRBはただちにドル資金を大量に発行して金融機関に流し込む「量的緩和」政策に踏み切った。筆者はこのとき冒頭の発言を思い出し、「FRBは住宅がだめなら株価を引き上げると考えたに違いない」と株価に注目した。案の定、株価は反転したが、量的緩和第1弾(QE1)が10年6月に打ち切られると、株価は急落。すると、FRBは10年夏にニューヨーク連銀に特別のデスクを置き、ウォール街と緊密に連絡をとらせて、株価指数投信にカネが回るよう仕掛けた。11月から翌年6月まで第2弾(QE2)を実施し、平均株価を上昇気流に乗せた。12年9月から第3弾(QE3)に踏み切り、13年12月からは緩和量を漸減させることにした。
FRBの「お札投入」による株価引き上げ作戦は、いわば重病人への大量輸血である。病人の体力、つまり実体経済自体が回復して、それが株価上昇につながる好循環を作り出す必要がある。でないと、輸血もいずれ効力を失って、万事休すになりかねない。とりわけ米国内総生産(GDP)の7割を占める個人消費は米景気の要である。住宅バブル当時は家計がマイホームの値上がり益を見込んで借金しては消費した。その家計が負債の返済を迫られているので、借金による消費はできない。
米国では全世帯でみた株式保有の普及率が5割を超え、2割台の日本をはるかにしのぐ。しかも米家計の金融資産の45%は株式と投資信託合計で占められ、現預金が53%に上る日本と対照的だ。米国では株価上昇が住宅相場下落で痛んだ消費者心理を修復できるという計算が成り立つのだ。米個人消費とGDPの推移をみると、米個人消費は09年3月の株価底打ちから3カ月遅れで回復が始まり、上昇軌道に乗っている。個人消費に引きずられる形でGDPが伸びている。お札を刷って景気をよくするという、マジックが演じられているのだ。半面で、株高の恩恵を受けられない世帯は5割弱ある。米国社会の格差拡大傾向はやまず、反ウォール街デモも起きる。もう一つ、グローバル化された金融市場のことだ。たとえば中国の不動産バブル崩壊ともなれば、米株式市場も大きく揺れる。株高頼みの米景気はまだまだ不安だらけだ。
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