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2014-06-13 00:00
(連載2)物価の上昇がデフレからの脱出とは限らない
田村 秀男
ジャーナリスト
平たく言えば、消費増税分を価格に転嫁するついでに、増税分よりもっと値上げする企業の行動が脱デフレにつながるのではないかと、期待するわけだ。東大の渡辺教授見解なるものまで引用し、しかも「デフレ脱却の契機を与えているという解釈も可能かもしれない」という二重、三重の逃げまで打っているところをみると、確固とした学術的考察でもなさそうだが、「値上げ=脱デフレ」という思考は隠しようがない。そんな経済学のレベルだから、大学で教育を受けた官僚が「増税値上げで脱デフレだ」と言ってはばからないのも無理はないだろう。
拙論がこうした官、学のエリートたちを批判する主たる根拠はケインズというわけではない。日本の慢性デフレというものを、「物価下落をはるかにしのぐ速度で勤労世代の報酬が下がっている状態」とかなり前から定義してきたからである。消費者物価と雇用者報酬の推移をみると、1997年度の消費増税で消費者物価は上昇したあと、98年末からじわじわと下がり続けてきたのが、2007年にいったん下げ止まった後、08年のリーマン・ショック以降、再び下落し、「アベノミクス」が始まった13年に上昇に転じた。13年の物価水準は97年に比べて3%弱の下落幅にとどまる。だが、それでも「デフレ」は続いている、と拙論は断言する。雇用者報酬のほうは16年前に比べて10%余りも縮小しているのを重視するからだ。
物価、雇用者報酬とも少しずつ上向いているではないか、と指摘する向きもあるかもしれない。しかし、物価上昇分を名目賃金から差し引いた実質賃金はこの1~3月期は、前年同期比1.8%減と下降が続く。春闘によるベアも大企業ですら1%に満たないし、消費増税分を加えた物価上昇率は日銀政策委員会見通しで今年度はプラス3.3%に上る。物価の大幅な上昇の半面で所得がわずかしか増えない家計が、消費に回せる金は減る。家計がそれを実感し出すと、企業は需要減に直面し、価格を下げるようになる。
値下げしてもいったん低下した市場シェアを回復できず、利益減の割合は値下げ率をはるかに上回る。企業はそこで賃金や雇用を減らすようになる。これが、97年度の消費増税から1年以上たった後から始まった日本の慢性デフレの実相である。需要が弱い環境下での値上げは官僚や教授たちが言うように脱デフレの契機になり得るのではなく、その逆で、デフレを加速させるきっかけになり得るのである。(おわり)
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