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2014-06-04 00:00
ウクライナのパイプラインからみるガスを巡る地政学
川上 高司
拓殖大学教授
ウクライナで選挙が行われ、ポロシェンコ氏が大統領として選出された。彼は親ヨーロッパ派であり、製菓企業をはじめ多数の企業を所有する大富豪で、「チョコレート王」と親しまれている。その一方でロシアとの対話の余地もあると述べて現実的な路線を予感させる。ポロシェンコ氏は自らを「リアリスト」と称しており、ウクライナを安定させる手腕が期待される。
ロシアのラブロフ外相はポロシェンコ氏との対話に臨む用意があるとコメントしており、ロシアの強硬な介入を否定する。これ以上ウクライナ問題がこじれれば、ロシアにとってもいいことはない。ロシア経済を支えているのは天然ガスや石油の輸出である。その供給先は主にヨーロッパであり、その意味ではロシアもヨーロッパに依存しているのである。ヨーロッパに供給するパイプラインはウクライナを通っている。そのためウクライナが政情不安になるとガスの供給が滞りヨーロッパもロシアも打撃を被ってしまう。
今回のウクライナ問題で、ヨーロッパはロシア以外のガスの供給先を探ったが、そのおかげで俄然注目を集めたのがアゼルバイジャンからトルコを経由するパイプラインである。このTANAPと呼ばれるパイプラインプロジェクトは、2012年にトルコとアゼルバイジャンの間で締結され2015年に着工する予定である。このパイプラインにはイランも秋波を送り始めている。イランもまた豊富な天然ガスを輸出したいのであり、アメリカとの宥和路線を踏まえて積極的に市場の開拓に乗り出そうとしている。
ロシアも黙って見ているわけではない。ロシアは黒海を横断してルーマニアなどを経由してイタリア、オーストリアへと続く「サウスストリーム」のパイプラインの敷設を6月に着工する。こちらはウクライナを経由しないので、完成すればヨーロッパへの安定供給が可能となる。さらにウクライナ問題で欧米と対立したロシアは供給先の多様化へと乗り出し、今後30年間で4000億ドルのガスの売買契約を東方の中国と締結して世界をあっと言わせた。なにしろヨーロッパへ供給するガスの4分の1に相当する量を中国が購入するのである。少なくとも30年間はロシアは安定した収入が得られることになる。ウクライナ問題によって、ヨーロッパからアジアまでユーラシア大陸はガスパイプラインを巡る駆け引きが活発化しているが、アメリカは全く蚊帳の外である。しかもオバマ政権はそれを受け入れているように見える。オバマ外交はますます内向きになり、ますますアメリカは国力を内に蓄えつつある。
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