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2014-05-26 00:00
働き手の困窮を無視した消費増税
田村 秀男
ジャーナリスト
消費税率が8%にアップ後、ひと月以上経過した。気になるのは消費景気だが、日経新聞は連日のように、デパートやスーパーなどの売り上げ動向を引き合いに出しながら、増税によるマイナス効果は大したコトはないし、あっても今後軽くなる、という楽観報道に徹している。売り手の「声」というのは、概して当事者たちの「こうあってほしい」という願望に強く影響される。時間が経つにつれて、希望は失望に転じやすい。1997年4月の増税時でも、やはり「マイナス効果はほんの一時的」という楽観論が経済報道の大勢を占めたが、景気は同年秋以降、急降下し始め、翌年からは慢性デフレ不況に突入した。
ミスリードを防ぐためには、思い込みを持たず、きちんとした経済統計データと主観データを突き合わせる必要がある。早い話、消費景気を反映するのは内閣府が毎月発表する「消費者態度指数」だが、それは昨年10月初めの8%増税最終決定と同時に見事に急降下を続けている。消費者心理に影響するのは物価の上昇と賃金水準で、消費者が物価が上がると予想すると財布のヒモを締めるのだ。名目賃金上昇率から物価値上がりを差し引いた実質賃金は1~3月期、マイナス1・8%と下降が続く。春闘によるベアも大企業ですら1%に満たないし、消費増税分を加えた物価上昇率は日銀政策委員会見通しで今年度3・3%だから、増税デフレ圧力をかわすにはほど遠い。
では、日経などが報じる「反動消費減は軽い」という楽観論とどうしてこうも実際の消費者データが食い違うのだろうか。家計の現預金保有額と全人口の高齢化比率の推移を比較してみると、98年度の慢性デフレ開始と同時に現預金が年間十数兆円も増加し、現在に至る状況が読み取れる。詳細に見ると、デフレが鈍った2007年までの数年間は伸びが止まった後、08年のリーマン・ショック後からのデフレ再加速とともに急上昇している。デフレと言うのは、カネがモノに対して使われない、つまりカネが実体経済に回らず「死蔵」されていく結果、雇用は増えず、設備投資も減る。勤労者所得が大きくカットされる。他方で、子育てが一段落した年金世代は住宅ローンも払い終えているし、年金など社会保障給付で手元の現預金は増える。
消費増税後の景気と言うのは、年収500万円程度の現役標準世帯にとっては苛烈である。現役世代は増税に直撃され、可処分所得はますます減る。他方で、もともとゆとりのある者が多い年金世代はさほど痛痒を感じない。銀座のデパートや新規オープンの日本橋のグルメ街を見てみればよい。夫婦連れで消費や高級レストランでの飲食を楽しむ世代は、明らかに偏っている。デフレ・高齢化時代の消費税増税は現役と若者を一方的に痛めつけるのだ。
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