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2014-05-23 00:00
無差別テロ頻発が習政権を直撃
杉浦 正章
政治評論家
少数民族の弾圧をつづける中国国家主席・習近平に挑みかかるかのような連続テロである。「中華民族の偉大なる復興」を唱える習近平の政治・外交路線は、対外的には米国中心の包囲網、国内的には収拾のつけようがなくなったテロ対策で、完全に手詰まり状態に陥った。ウイグル族によるテロの連続発生は、共産党一党独裁政権発足以来の事態であり、拡大する貧富の格差、民族差別など高度成長の歪みが作用して、構造的な原因がある。とりもなおさず習近平の強権主義が、内外から拒絶反応にさらされていることを物語っている。まさに政治家としての能力が問われる段階に入った。ウイグル視察の際、倭寇を竹槍を使って撃退した例を挙げて、テロ対策を指示した習近平を見て、いくら日本が嫌いだからと言ってピントが外れているのではないかと思った。案の定その直後の4月30日にウルムチ駅前でのテロだ。竹槍では爆弾は抑えきれない。今回の朝市でのテロは、上海で開かれた「アジア信頼醸成措置会議」で習がテロ対策での国際協力を訴えた直後である。一連のテロが何を物語るかと言えば、習のメンツをつぶし、習体制へのダメージを狙っている点であろう。
明らかに一定の組織が状況を判断して、テロへの指示を出している事がうかがわれる。場当たり的なテロではない。もちろん無差別テロそのものは非難されるべき行為だが、連続テロの根源をたどれば、力の政治には力による反動がくるという、政治学の初歩の問題を習が理解していないところに行き着く。ウイグル族によるテロの根は深い。中国は1964年の最初の核実験以来、46回の核実験の全てをウイグル自治区で行った。関連記事を書く度に自治区の住民は大丈夫かと思っていたが、当時は自治区の情報など皆目ゼロであった。しかし世界ウイグル会議の発表によると、被曝の影響で75万人が死亡したという。別の情報では10万人近くが死亡という。数はともかく、中国はまるでウイグル族を消滅させるかの如く核実験を繰り返したのであろう。驚くべき民族弾圧である。昨年10月には自治体政府への不満を北京で陳情しても聞いてもらえないことを理由に、1家3人が天安門に車で突入するという、痛ましいテロもあった。ウイグル族の感情は恨み骨髄となって爆発し始めたのだ。
近年最大の事件は、2009年の7.5騒乱である。197人が死亡した。7月で5年となる。当時の胡錦濤政権は、騒乱への反省からウイグルへの融和策をとった。経済発展を通じて生活の改善を図ったが、同時に民族同化政策を行って、漢族を移住させた。これが失敗であった。事業に成功して裕福になるのは自治体政府とつながりがある漢族ばかりで、貧富の格差は拡大、若者の失業率は上昇した。習近平は「甘い顔をするからつけあがる」と、ウイグルへの厳しい抑圧政策に転向した。この結果ウイグルの民族感情が刺激され、専門家によると「これまでジーンズにTシャツ姿であった若い女性がベールをかぶるようになった」という。弾圧でイスラム教への回帰が始まり、原理主義が幅を利かせるようになりつつある。やはりイスラム原理主義である中東のアルカイダと結びつく危険も指摘される状況になっているようだ。当局はウルムチ駅でのテロはウイグルの分離独立を目指す過激派組織「東トルキスタン・イスラム運動」の仕業と断定している。今回も同組織がかかわっている可能性が指摘されている。
習近平は台湾の統一で後世に名を残したいといわれるが、ウイグル自治区の様相は分裂指向であり、台湾統一どころではなくなった。連続して発生する大型テロの影に隠れているが、小さなテロは頻発しており、中国社会は安心して住めないばかりか、旅行にも危険が伴う状況となっているのだ。テロと弾圧の悪循環がもたらすものは、中国の政治、社会の疲弊であり、行き詰まり状態を意味する。金持ちはどんどん海外に資産を分散させ、共産党幹部による汚職はまん延している。1949年10月1日に中華人民共和国の建国を北京で宣言して以来65年を迎えようとしているが、ここに来て共産党一党独裁の歪みが噴出する状況となったのは間違いない。習近平が「ラストエンペラーに」なることを恐れて、人民解放軍を統一する最良の手段としての戦争を選ぶ可能性は否定出来ない。日本は抑止するための努力をおさおさ怠ってはならない。
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