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2014-04-02 00:00
集団的自衛権で公明不要の構図
杉浦 正章
政治評論家
あっという間に自民党が集団的自衛権の限定容認論で大勢が固まり、野党も維新、みんながこれに同調する流れだ。民主党は左傾化した執行部が「反対」を打ち出したいのだが、打ち出せば党内は確定的に割れる。従って、「自民、維新、みんな、民主の右派」による解釈改憲推進の構図が出来上がりつつある。孤立感を深めているのは公明党である。代表・山口那津男が死んでもラッパを離さないのか、理由をつけて離すのか。結局、離すような気がするが、ここに来て首相・安倍晋三は「熟柿作戦」に出ている。安倍は4月に予定していた安保法制懇の報告書も5月に先延ばしする方針を固めた。4月1日の自公党首会談は、山口にとって相当の圧力であっただろう。山口にしてみれば自民党の反対論が高まることだけが、自らへの追い風であったのだ。ところが自民党の安全保障法制整備推進本部が開幕早々限定容認論で固まり、すがる杖が外れてしまった。会談で安倍が「まずは自民党で考え方を共有した上で与党協議に臨みたい」と述べたのは言外に、「自民党は限定容認で固まっている」ことを背景に圧力をかけたことにほかならないのだ。山口は会談に先立つ記者会見で「長年、集団的自衛権の行使は解釈上禁止されている」とまだ息巻いていたが、ひしひしと追い詰められた感じだろう。
実体的にも集団的自衛権容認問題をめぐる与野党の勢力関係は「公明党不要の構図」が出来上がりつつある。賛成派は自民、維新、みんな、民主党右派などであり、これだけで圧倒的な数を確保出来る。民主右派を除いた数だけでも、衆院で355議席と圧倒。参院では141議席と軽く過半数を超えている。これは秋の臨時国会で集団的自衛権の関連法案が提出されても、十分処理可能な勢力である。公明党は自民党への選挙協力だけが武器だが、まだ解散は先であり、武器には使いにくい。それにしても自民党の根回し力は相当なものがある。安保推進本部は今後週1回合計10回程度の会合で調整を進めるが、初会合の段階で流れを決めてしまった。得意の根回しに加えて、副総裁・高村正彦の人望と法律家としての実績をフルに活用したことが物を言った。高村は着眼点もいい。1959年の砂川判決に目をつけた。同判決は憲法の番人である最高裁が自衛権について述べた唯一無二の判決であり、その内容は「自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛のための措置はとりうる」と自衛権を容認したものだ。高村は同判決が必要最小限の自衛権行使を認めていると解釈し、「『政府のいう必要最小限度の武力行使』には集団的自衛権の範囲に入るものもある。個別的自衛権はいいが、集団的自衛権はダメと、内閣法制局が十把一からげに言ってきたのは間違いだ」と安倍の立場を擁護した。
この限定容認論に150人の出席者からは反対意見はなく、賛同する意見が圧倒的であった。参院での反対論の核であった国対委員長・脇雅史までが「自分の考えはほとんど副総裁と同じだ」と臆面もなく述べるに至った。急先鋒の元行革相・村上誠一郎は欠席。雰囲気を察して雲を霞と逃げた。しかし高村構想に対しても山口は「砂川判決は個別的自衛権を認めたものと理解してきた」と述べたが、明らかに誤判断だ。同判決は個別的、集団的と自衛権を区別していないことから、集団的自衛権でも日本の存立を全うするための措置なら、憲法上認められるという解釈が正しい。こうして山口は追い詰められたのが実態だ。一方、忘れてならないのは民主党の動き。リベラル執行部に対して右派が動きを活発化させている。3月4日の「次の内閣」では、執行部が「憲法解釈を恣意的に変更することは許されない」と集団的自衛権容認反対を打ち出そうとしたことに、元代表・前原誠一と元外相・玄葉光一郎が猛反対、前原は退席したほどだ。
民主党政権で防衛副大臣であった長島昭久、渡辺周らも防衛省の要望を受けてか、動きが活発だ。超党派議連「外交・安全保障政策研究会」の会長である長島は、集団的自衛権の行使容認で基本法案を提出することを検討している。こうした状況から、執行部は保守派の要求を受けて、原発輸出を容認せざるを得なくなって来ているのと同様に、集団的自衛権に関しても、意見の集約は不可能となっている。執行部が反対を打ち出せば、党分裂の危機も到来しないとは言えない。このように集団的自衛権をめぐっては「公明党不要の構図」がますます強まる流れとなってきている。おそらく公明党は政権への執着心が極めて強いことから、自民党がメンツを立てさえすれば「渡りに船」と乗らざるを得ないのではないか。同党は一時国土庁長官・太田昭宏が「全て首相が答えていることに同意している」と発言するかと思えば、幹事長・井上義久ば「私どもは真っ正面からこれを否定しているわけではない」と“本音”を述べた。懸命になって山口が軌道修正しているのだ。安倍は事を性急に進めず「熟柿」が落ちるのを待ち、一気呵成に会期末か夏には閣議決定の決断に持ち込むのであろう。
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