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2014-01-19 00:00
日中の研究交流に向けて
池尾 愛子
早稲田大学教授
1967年に5カ国で設立された東南アジア諸国連合(アセアン、ASEAN)は、現在では10の加盟国を擁している。その設立目的は、(1)域内における経済成長、社会・文化的発展の促進、(2)地域における政治・経済的安定の確保、(3)域内諸問題の解決、である。共通語は英語で、ウェブサイトも英語で構成されている。綴りはイギリス式であるが、イディオムを使わない英語が用いられている。2015年にはアセアン経済共同体(AEC)の構築がめざされている。既に、荷物の積み替えなしで、同じトラックでアセアン域内の運送が実現していると聞く。学生からの質問に答えれば、小説の英語よりも、ビジネス、経済、経済政策、政治動向について語れる英語が必要とされるのではないだろうか。もちろん、文学作品を読んだり、宗教や文化についての知識も増やしたりしたい。しかし、日本の大学において社会科学に関しては、日本語での授業が全て英語での授業に置き換えられるのではなく、日本語と英語でのトラック(コース)が併存することになるのではないだろうか。
ヨーロッパでは、1987年にエラスムス・ムンドゥス(現在では欧州連合加盟国と近隣諸国の大学生・大学院生の交換留学、教授者の交流制度)が始まり、域内交換留学者数は着実に増えてきた。1993年に欧州連合(EU)が誕生すると、社会科学分野の研究活動や学会活動が大きな影響を受けたようだ。EUは加盟国の数だけ公式言語を設けることを原則としてきたが、研究や教育において英語を利用する機会が一段と増えたといえる。当時、私と同世代の研究者たちが組織する会議に参加するためにヨーロッパを訪問する機会が何度かあり、会議の席だけではなく、研究者たちが会議の合間、カフェテリアや廊下で情報交換に余念がなかったのを思い出す。諸言語というより、種々のアクセントの英語の嵐の中、結局、各国での学会活動のほかに、欧州全域をカバーする会議が開催されたり学会が設立されたりしたと思う。現在、職業訓練が行われているのでドイツ人大学生の就職率が高いとされ、その職業訓練の中に英語教育が含まれている。それでも、ドイツ人はドイツ語を、フランス人はフランス語を手放したりしない。
1990年代後半、中国で大幅な教育改革が行われた。その改革の方向や中身について相談に乗った日本人研究者から、改革の様子を幾らか伺っていた。また、中国側から日本側への「注文」も間接的に聞いた。改革の中に、外国語教育の強化や英語の小学校からの義務教育化の方向があり、それらは着実に実施されてきたようだ。改革開始から12~16年が経つと、その成果は、語学を専門とする職業に就く人以外でも、英語を第二言語として使う大学生や大学院生、そうした卒業生の増加となって現れている。こうした動向は今後も持続し、英語が使える中国人の数が毎年、着実に増加を続けることであろう。中国での、否、東アジアでの新人類になるかもしれない。
少なくとも経済・経営分野での研究交流については、英語で行われる機会が増えるのではないだろうか。中国内のデータの利便性が向上すれば、数字を使い、事実に注目して議論できる分野では、研究交流が進めやすいのではないだろうか。過去の経験に照らせば、日中の学会同士の交流は困難が立ちはだかりうまくいかなかったが、個人や研究グループのレベルでの論文投稿・会議発表ではかなりうまくいったことがある。学会のあり方が少なくとも日中で異なるので注意を促したい。中国では、機関誌を発行するなど通常の活動を行う学会もあれば、そうでもない学会もある。国際交流目的のためだけに対外的にだけ学会が名乗られることがあり、この場合には国内での活動実態はなかったようである。研究機関同士の日中交流の方が進んでいたような気もするが、今はどうなのだろうか。近隣諸国間での研究交流は、時間や旅費の節約にもなるので、進展を大いに期待したいと思う。
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