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2013-12-20 00:00
(連載)日米安保解消に備えて(2)
加藤 朗
桜美林大学教授
慰安婦問題は、日本で論じられるような軍の強制連行問題などではない。戦前の公娼制度そのものを人身売買や奴隷制度として人権問題の視点から批判しているのである。だからいかに親日のアメリカ人といえども公娼施設を軍が慰安所として利用していたことなど認めることなどできようはずもない。アメリカは日本以上に建前の世界である。本音では慰安所のような施設の存在を容認したとしても、キリスト教の倫理から、公には絶対に認められない。
一方日本では、江戸時代の遊廓の伝統からか公娼制度には必要悪として比較的寛容であった。浮世絵はまさに遊郭文化の真髄であり、落語にも遊郭を舞台にした話は多い。また「おしん」のように身を売って奉公人になり貧しい家族を養うというのは美談でもあった。しかし、遊郭文化は奴隷文化であり、おしんは奉公という人身売買の犠牲者と見るのがアメリカの見方であろう。この日米の奉公制度や公娼に対する認識の差異を突き詰めれば、結局日米の文化摩擦、文明の衝突になりかねない。だからこそ安倍政権が価値同盟すなわち理念の同盟として日米同盟を強化しようとすれば、慰安婦問題については少なくとも発言を控えた方が良い。またアメリカ政府にもこれ以上公的な場での慰安婦批判についての発言を控えてもらうべきである。
第三の理由は、アメリカにとって米中の利益の同盟が日米の理念の同盟よりもアメリカの国益にかなっていることにある。アメリカが日米関係で最も恐れるのは、尖閣問題で日中軍事衝突に巻き込まれることである。防空識別圏の設定は明らかに中国の挑発であり、軍事衝突に向けて中国がpoint of no returnを超えたことを意味する。アメリカとしては、日中間の領土紛争に巻き込まれるのはなんとしても避けたい。日中対立の文脈をめぐって日本が日米同盟を強化しようとするのは、かえってアメリカの国益に沿わないとの判断が出てくる可能性がある。相手への思いが強まれば強まるほど、思う相手は離れていく。日米同盟強化の思いが日米同盟弱体化、さらには解消を招く恐れがある。
軍事的な理由に加えて、米国の経済的利益から見れば米中関係のほうがはるかに重要である。成長著しい中国の市場はアメリカの経済発展に必要不可欠である。人口減少で縮小する日本市場よりもアメリカにとって中国市場の方がはるかに重要であることは疑いもない。要するに金の切れ目が縁の切れ目、ということだ。日本は、いよいよ日米安保解消後の国家戦略を真剣に考慮する時が来た。国家安全保障会議の最初の仕事は、The Day Afterを考えることだ。(おわり)
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