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2013-11-18 00:00
財界訪中で「政経分離」の流れ急
杉浦 正章
政治評論家
日中関係の現状は、政治が冷え切ってしまったのとは対照的に、経済関係が“尖閣失速” を取り戻すかのように急進展を見せている。日本車販売はV字型回復を見せ始め、人的交流も活発さを取り戻しつつある。こうした中で11月18日、日中経済協会(会長=張富士夫トヨタ自動車名誉会長)の訪中団が北京へ向け出発する。国家主席・習近平か、首相・李克強との会談が実現する可能性があるという。まさしく、政経分離が先行して1972年の日中国交正常化へと動いた如く、経済が政治をリードする構図が先行する気配である。日中関係の冷え込みぶりは、まるで氷河期の状態にある。首相・安倍晋三がウオールストリートジャーナル紙に「中国が法の支配ではなく、力による現状変更を試みていることに懸念がある」と述べれば、人民日報傘下の国際情報紙・環球時報は「悪意に満ちた言葉だ。日中間で摩擦が続けば、戦争だ」と、初めて戦争という表現をつかった。防衛相・小野寺五典が領海への“侵入”行為を「平和と緊張の間のグレーゾーン」と指摘すれば、環球時報は「中日はもはや何も話すことはない。どちらも自らの強硬な立場を頑なに守り、慎重な摩擦を仕掛けて、相手の限界点を探りながら、軍事衝突という最悪の事態への準備を進めている」と、今度は「軍事衝突」だ。まるで突撃ラッパを吹きまくっている様相。
とにかく「口撃」先行のお国柄だから、話半分に聞いた方がよいが、それにしても「戦争」「軍事衝突」とは穏やかではない。日本はますます守りを固めて、秘密保護法の成立を急ぎ、集団的自衛権行使への流れを確立しなければなるまい。国の安全保障だけは、悪夢の共産党独裁体制崩壊に連動した対外軍事攻勢など、何が発生しても盤石な態勢を敷いておく必要がある。しかし、それとは裏腹に、経済関係の復旧はお互いのために進めざるを得まい。既に中国市場での自動車販売は反日デモで販売が大きな打撃を受けた昨年9月と比べると、各社とも60~120%の大幅増となった。日産が前年同月比83.4%増の11万7100台、トヨタは同63.5%増の7万2100台、ホンダは同118.1%増の7万3990台といった具合だ。明らかに、最悪期は脱した。こうした中で財界訪中団は、張のほか、経団連会長の米倉弘昌(住友化学会長)、同副会長川村隆(日立製作所会長)ら財界人77人を含む178人で、2011年度の182人に次ぐ過去最大規模となった。結団式で張は、「日中関係はいまなお厳しい状況にあるが、経済分野の相互補完基調に変化はない。中国の指導者との意見交換を通じて、揺るぎない日中関係の構築に貢献したい」と事実上の「経済先行」を宣言した。
これは日中間でかねてから存在した政治と経済を分離して、経済交流だけを先行させる方式であり、戦後の極東における政治・経済史の編み出した知恵である。1962年には訪中経済使節団団長として、大日本水産会会長・高碕達之助が岡崎嘉平太など企業トップとともに訪中し、中国側の廖承志と会談。「日中総合貿易に関する覚書」が調印され、経済交流が正式に開始されることになった。署名者である廖と高碕のイニシャルからLT貿易協定と呼ばれることになる。1972年の国交正常化までこの政経分離は続いた。最近では小泉純一郎の靖国参拝で冷え切った日中関係打開のために、「政冷経熱」方式で経済関係は維持された。翻って両国の国内情勢を見れば、中国はあきらかに高度成長期を終えつつある。現在の国内総生産(GDP)7.8%が高度成長との見方があるが、これは甘い。専門家の多くの見方は、中国にとってGDPの下限はぎりぎり6%であり、これを下回ると破たんに限りなく近づくとされる。
従って7%台はまさに薄氷を踏む数字である。おまけに共産党一党独裁にとってGDPの数字の操作などはお手の物であり、数字そのものが信用できない。習近平は日本の投資と企業進出が、成長率維持のためには不可欠と感じているのであろう。一方アベノミクスの首相・安倍晋三にとってみても中国との経済関係は良好であるに越したことはない。内閣府が14日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)は、物価の変動や季節要因をのぞいた年率換算の実質成長率で1・9%増と前期と比べて伸びが半減した。GDPの6割を占める個人消費や、輸出が減速したためだ。アベノミクスも油断すると失速しかねないのだ。こうして日中双方の利害が経済関係強化の1点では一致する様相なのである。しかし、氷河期の氷が簡単に解けるかどうかは全く予断を許さない。そこで官邸が固唾をのんで見守るのが、財界訪中団に対する中国側の接遇のレベルがどの程度かである。3月の訪中で、財界訪中団と会ったのは国家副主席・李源潮であった。今回の訪中団に習近平や李克強が会うかどうか。会った場合何を言うか。その発言が日中首脳会談につながるものとなるかどうかなど、注目点は極めて多い。今後の日中関係を占うものとなると言っても言いすぎではないのだ。
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