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2013-10-07 00:00
公明・山口の自己主張は度が過ぎる
杉浦 正章
政治評論家
「スピッツが手に負えんなぁ」と自民党幹部が嘆いている。公明党代表・山口那津男の一連の「安倍政治」批判に対してである。最近では憲法改正や集団的自衛権問題に関連して、たびたび連立解消をほのめかすにまでに至っている。その主張も政権内にある政党党首とは思えないほどの食い違いである。むしろ自社対決時代の何でも反対の社会党のようですらある。10月15日からの臨時国会では、国家安全保障会議(日本版NSC)創設法案とこれに密接に関連する特定秘密保護法案が焦点となるが、秘密保護法案にも極めて慎重である。首相・安倍晋三はこのまま「政権内野党」を野放しにしておくことも出来なくなる可能性が出てきた。安倍はノイジー・マイノリティ(声高なる少数派)よりサイレント・マジョリティ(物言わぬ多数派)を選択すべきである。自公連立政権は、民主党政権時代を除いて1999年から続いているが、今回の連立の最大の欠陥は、自公の力関係と時代背景ががらりと変わったにもかかわらず、無条件で継続させたことにある。最大の勢力関係の変化は、自民党が衆院で294議席と31議席の公明党のほぼ10倍を確保して、衆院での連立が不要になったことだ。参院自民党は113議席で、121の過半数に足りないが、公明党が離れても維新と連立し、その9議席で124議席となり、過半数を維持できることだ。
そして時代背景は、極東情勢の激変である。この3年間で自民党幹事長・石破茂がいみじくも「米ソ冷戦後の世界はこれであったか」と極東の緊張状態を指摘した通りだ。中国の海洋進出が尖閣をめぐる厳しい緊張関係をもたらし、北朝鮮は核とミサイルのどう喝を繰り返す。まさに「極東冷戦」の状況の現出だ。この変化を全く意識しないで、自公両党は過去の“習癖”を踏襲するとばかりに連立を組んだ。連立に先立ち少なくとも極東情勢の変化とその変化への安全保障上の対応が急迫していることくらいは、安倍と山口の間で重要ポイントとして確認すべきであった。この結果山口は、絶対平和主義の創価学会の言うがままに天から平和が降ってくるとばかりに、およそ時代にそぐわない発言を繰り返すに至ったのだ。その象徴的な例が、集団的自衛権での憲法解釈変更が、「近隣諸国の理解を得る必要がある」などという、驚くべき認識欠如の発言につながる。すべては近隣諸国による著しい軍事圧力によって触発されての集団的自衛権なのである。国民が衆参両院の選挙で自民党を圧勝させた最大の理由も、民主党がぼろぼろにした安全保障体制の再構築にある。山口はそこが全く分かっておらず、思考停止状態であるかのように、一時代前の野党の主張を繰り返す。まさに創価学会婦人部のレベルを国政に持ち込んでいるのである。
その何でも反対路線が、臨時国会にも反映されかねない状況もある。公明党はNSC設置法案と秘密保護法案の分離審議を主張しだしたのだ。是非の最終判断決定も臨時国会にずれ込ませる方針だ。これは明らかに秘密保護法案をつぶすか、骨抜きにしたい意図がありありと見える。政権与党であるなら、まず与党間の調整をすべきなのに、それをろくろくせずにわなを仕掛ける。共産党でもしないような陰謀だ。さすがにそれに気付いた安倍と幹事長・石破茂は「両法案一括審議」を決めたが、危ういところであった。さらに山口は、安倍が8%への引き上げを決めたばかりなのに、今度は「10%引き上げの際の軽減税率導入を現段階で決めよ」と唱え始めた。食料品や新聞などへの課税を軽減する軽減税率の主張の背景には創価学会と新聞首脳の強い働きかけがあるようだ。安倍は再来年10月の10%への移行が可能となるかどうかを見極めざるを得ない状況にある。来年4月は何とか切り抜けても、10%引き上げの連続パンチに、日本経済が耐えられるかどうかは、全くの未知数だ。そのような政権全体の浮沈にかかわる問題を支持団体や一部マスコミの思惑などに左右されて主張するのは、まさに国会を村議会並みに考えているとしか思えない。山口の主張を分析すれば、確かに冒頭紹介したようにスピッツ的である。少なくとも連立政権の一方の政党を代表するのなら、野党のようにマスコミに向けてまず発言して、マスコミの“同意”を求めるポピュリズムに走るべきではない。自らを「ブレーキ役」と位置づけているが、新幹線のブレーキにバイクのブレーキを取り付けても壊れるだけだ。
自らの政党の勢力を顧みてみるべきだ。衆院で自民党の10分の1、参院で5分の1の勢力でしかないではないか。この力関係では、自民党の主張を10通した上で、自分は1の主張を慎ましく通すことが正しい。それが国民の国政選挙における選択でもあるのだ。集団的自衛権にせよ、改憲にせよ、安倍の政策の1丁目1番地は分かっていたはずだ。これに反対するのなら、最初から連立への参加を拒否すべきだった。公明党は過去の連立政権では、これほどの“与党内野党”の姿勢は示さなかった。自らの主張をして、最後には妥協へと動いて、政権を長期に維持してきた。これに比べて山口はことあるごとに連立離脱をほのめかしながらのけん制である。集団的自衛権の解釈変更を来春以降に先送りさせたことも、みずからの影響力の強さを誇りたいかのような口ぶりだ。しかし、政権政党であることの“蜜の味”が、学会絡みの陳情や政策実現にどれほど効果を生じさせているかは、公明党自身が分かっていることである。これがなければ創価学会の勢力は見る影もなく縮小していたという見方が強い。だから一見、反対のように見せかけて、最後は政権につく“意図”が見え見えなのだ。まさに陋劣(ろうれつ)なる性格の側面を保有しているとしか言いようがない。自民党は臨時国会が集団的自衛権と改憲をめぐる公明党との駆け引きの前哨戦と心得るべきである。秘密保護法案は衆院は難なく通過できるが、参院でもし公明が抵抗すれば、維新と組んででも成立を図るべきだ。数に応じた対応を自信を持って進めればよい。山口の強硬姿勢の背景には、「学会票が自民党に回らなくなってもいいのか」というどう喝があるが、集団的自衛権や改憲は、それを覚悟で断行する価値がある。公明党と創価学会というノイジー・マイノリティにひきづり回されて、サイレント・マジョリティの存在を見失うと、災難は自民党に降りかかる。
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