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2013-09-10 00:00
オバマが議会に下駄を預けたシリア情勢
川上 高司
拓殖大学教授
イギリスがシリアへの空爆中止の表明後もオバマ大統領は単独でも空爆を実施すると強硬論を主張した。NATOは空爆に不参加、アラブ連盟も結局は支持しない側へと転じて、友人はフランスだけになってしまった。そんな中、オバマ大統領は唐突に議会の投票を求める発表をした。それは側近さえも知らなかったオバマの心の内から出た決断だった。8月30日、オバマ大統領はマックドーノー大統領補佐官とホワイトハウス内を散歩中に打ち明けた。「議会の決議を待ちたい」。ただちに閣僚たちが招集された。バイデン副大統領やヘーゲル国防長官、ケリー国務長官は事前の相談がまったくなかったことに不満を漏らしたという。軍の高官は空爆延期にあたり軍事的問題はあるかと聞かれ、「何の問題もありません」と答えた。延期が決定された。
もちろん、下院議長やマケインなど主要な議員にもなんの相談もなかった。オバマ大統領がひとりで考え一人で決断したことだった。長く孤独な自問自答の末に出てきた決断は重い。フランスでも議会に諮るべきだとの要求がオランド大統領に突きつけられている。シリアではこの唐突に見える決断をどう受け止めているのだろうか。アル・モニター電子版によると反政府のシリア自由軍は当然ながら困惑している。猶予がシリア政府に与えられたためシリア軍は部隊を移動してしまった。空爆してもダメージは受けない。「やるといったらすぐやってもらいわないと」と、現地司令官は不満を口にする。
一方、反政府軍の中には空爆に反対するグループもある。彼らは空爆が延期されたことを歓迎している。空爆後にアサド政権が倒れたとして、誰がシリアを支配するのか。もしイスラム過激派が権力を握ることになれば次は過激派との闘いとなる。結局、国民が犠牲になるだけで誰もシリア国民のことは考えていない。空爆は欧米の都合で決まるだけだ、そんな冷めた声もある。
イスラエルはレバノンとの国境に部隊を派遣して警備を固めた。レバノンのシーア派組織ヒズボラはシリアへの攻撃がなされたときの報復プランを練っているという。プランAは、最小限度の戦闘でシリア政府軍を支援しシリア政府の支配区域を維持するだけにとどめる。プランBは特殊作戦を遂行する。これはアメリカに対して十分すぎるほどのメッセージとなるだろうとヒズボラ幹部は警告している。そしてプランCはイスラエルへの攻撃で、先ほどの幹部も認めるように最悪のシナリオだ。アサド大統領自身は、武力行使に対しては国連憲章で保障されている自衛権を発動すると一歩もひかない。シリアだけでなく周辺国もまたアメリカの空爆が引き起こす事態に対して準備に余念がない。シリアへの空爆は目標は限定的だがその結果は限定的ではないのである。
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