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2013-08-27 00:00
薄熙来が象徴する共産党独裁体制の矛盾
杉浦 正章
政治評論家
中国国家主席・習近平は蔓延する汚職について「トラもハエも叩く」と宣言したが、一匹たたいても群がるハエは「ワーン」と羽音を立てて一斉に飛び上がり、場所を変えて群がるのが実態だろう。8月26日結審した元重慶市共産党委員会書記(元党中央政治局員)の薄熙来被告の公判が物語るものは、共産党独裁政権64年がもたらしたこの国の汚職と腐敗の闇の深さとその広がりであろう。明らかに土台は清朝末期にも似て腐り始めており、やがては1党独裁が致命傷となって、国の有り様(よう)を行き詰まらせるに違いない。日本にとってもっとも危険なのは、習近平が国民の不満をそらすために「尖閣」を活用しようとすることであろう。収賄と横領、職権乱用の罪に問われた薄被告への判決が注目されるが、おそらく国内支持勢力の反作用を避けるために、死刑は避けるというのが大方の見方だ。薄熙来は冒頭から検察の起訴内容を全面的に否認し、中央政府と対決する姿勢を見せたが、客観的に見て「赤い収賄貴族」であることは誰も否定出来まい。「赤い貴族」とは共産党幹部の家族、親族であり、人脈や血縁を生かした事業や不正蓄財で巨万の資産を生んでいる階層を指す。中国では収賄官僚は高級腕時計を付けているケースが多いため「時計アニキ」と呼称されるが、薄熙来の場合のその収入はけたはずれであり、時計アニキどころではない。米国留学中の息子がアメリカではポルシェを飛ばし、北京では赤いフェラーリを乗り回す。まさか「バイトで稼いだ」とは言えまい。
英国人ニール・ヘイウッド毒殺事件の主犯として逮捕された妻の谷開来は、有罪判決を受け、服役中だ。毒殺の動機は、夫妻の金銭管理人であったヘイウッドが外国への不正蓄財を進める見返りを要求して、“ゆすり”の動きに出たことにある。これにたいして、口封じのため青酸カリを飲ませて、毒殺してしまうのだからすさまじい。薄熙来の甘さは、中国共産党幹部には何をしても火の粉は降りかからないという“神話”を信じたことであろう。しかし、重慶に“左遷”されてからの動きに、党中央の胡錦濤政権は神経を尖らせた。毛沢東の平等主義路線を主張し、「唱紅」という革命歌を歌う運動を展開、格差社会を否定、共産党幹部にとって必要不可欠のマフィアとの癒着の否定など、ことごとく北京の神経逆なでの路線をとった。逆に低価格の住宅建設など弱者対策を重視し、その人気は高まる一方だった。北京は「重慶発の革命」を懸念するまでに至ったのだ。
そもそも共産党幹部にとって不正蓄財などは常識の部類であり、首相・温家宝ファミリーの蓄財説をニューヨークタイムズが報道したのは記憶に新しい。普段ならお互い見て見ぬ振りをするのが習いだが、いったん政争絡みとなれば、脇腹をえぐられることになるのだ。薄熙来失脚の実態はまさにこれだ。背景には、長年にわたる1党独裁体制の歪みが紛れもなく存在する。とりわけ鄧小平の改革開放路線以来儲けにもうけた層が共産党幹部に限定されているのだ。その利益誘導の構図はこうだ。国有銀行は共産党幹部が操る国営企業、地方政府に資金を回し、民間には貸し渋る。従って圧倒的に有利な国営企業と地方政府が潤沢な資金を背景に事業を展開、アリが砂糖に群がるように民間業者が賄賂を懐に接近する。こうして地方の大都市には大小の共産党財閥のような組織が形成される結果を招いているのだ。「賄賂を拒んだら『ちょっとおかしい』と言われる」「賄賂を貰わなかったら、官僚になる意味が無い」と官僚が公言する風潮が生じているのだ。それが2008年から2012年までの収賄での起訴数を25万人という天文学的な数字に至らしめているのだ。けた外れの規模が元鉄道相・劉志軍が25年間君臨した間の10億円の賄賂だが、これは氷山の一角であり、鉄道省全体で見れば賄賂の額は「兆」の単位に登ると言われている。
こうして共産党内部に強固なる利益集団が発生した。院政を敷きたがる党長老とこれを引き継ぐ子弟による「太子党」がその核心部分だ。それが高邁(まい)なる社会主義革命の理想などとっくに忘れた “銭ゲバ” の風潮を巻き起こして、怪物のように成長してしまっているのだ。こうした風潮が「時計アニキ」がネットに出た写真で摘発されて逮捕されているうちはよいが、薄熙来クラスの事件にまで発展すると話は別だ。汚職摘発が権力党争の手段として新たに登場したことを意味する。蓄財専念の共産党幹部はいつ自分がやり玉に挙げられるか気が気ではあるまい。金も家族も海外に移していつでも逃げられるようにしている役人を「裸官」と称するそうだが、それを一手に引きうけるマフィアの地下組織「逃がし屋」がもうけに入っている。中国や香港からの“逃亡移民”が多いカナダのバンクーバーは、今や香港のようだから「ホンクーバー」と呼ばれる。人口は約213万人のうち約40万人が中国系移民だ。こうして中国の共産党1党独裁体制は、その内包する矛盾撞着がいつ噴出してもおかしくない状況に到達しつつある。中国の動きは、政治も民衆もその国土を流れる大河の如く一見緩慢に見えるが、ひとたび火が付けばそれこそ燎原の火のごとく拡大する。問題は、これを食い止め、国民の愛国心を鼓舞する絶好の材料が「尖閣」にあることだ。習近平は最後の手段としてこれを手放さないだろう。日本も覚悟して安保体制を盤石なものにしておく必要がある。
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