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2013-08-07 00:00
習近平は日中暗黙の「靖国了解」を守れ
杉浦 正章
政治評論家
「安倍首相が靖国に参拝したら、アメリカと中国と韓国から、戦前のABCD包囲網のように日本包囲網を作られてしまう恐れがある」と東大客員教授・御厨貴が産経のインタビューで“警鐘”を鳴らしているが、まるでタブロイド判並みのセンセーショナリズムのように見える。米国と言っても、いささか広うござんすである。ニューヨークタイムズが4月の閣僚参拝を「無用の国粋主義」と批判しても、偏屈なユダヤ人資本が支配する同紙特有の見解にすぎない。駐米大使・佐々江賢一郎がワシントン・ポストに「日本政府は歴史に常に謙虚に正面から向き合うことが重要だと考えている」と反論を書けば、それですむことである。米議会調査局が報告書で「今月15日の終戦の日に安倍総理大臣や閣僚が靖国神社に参拝した場合には、再び地域の緊張を高めるだろう」と指摘しても、それは「参拝するな」といっているのではない。いずれも日本のマスコミが一定の思惑をもって、報道するから“大事”になるのである。
最近ワシントン特派員が好んで記事にしているが、米議会調査局の報告というのは一体何かと言えば、日本で言えば国会図書館の調査資料『レファレンス』(月刊)のようなもので、米国のマスコミは一切関心を持たない。公開情報を元に一般論を述べているだけである。首相が参拝すれば確かに地域の緊張は高まるかもしれないが、だからどうすべきだとまでは言っていない。越権行為になるからだ。石を見て「これは石だ」と述べているに過ぎない。それを、公共放送であるにもかかわらず最近左傾化の著しいNHKも、朝日も、あたかも「米議会の意思」でもあるかのような取り上げかたをして、人の良い東大教授様までだましてしまうのだ。ことごと左様に靖国参拝をめぐる報道には問題がある。議員が参拝しようがしまいが、マスコミが天地がひっくり返ったように毎回大騒ぎして報道しなければ、中国も韓国も反応しないのだ。そのマスコミが8月15日の終戦記念日の参拝をめぐって手ぐすねを引いているが、どうも首相・安倍晋三は肩透かしのようだ。
既に分析したように、安倍も、副総理・麻生太郎も、外相・岸田文男も、官房長官・菅義偉も、参拝しない方向だ。どうでもいいような伴食閣僚や、エキセントリックな政調会長、国会議員らが参拝しても、それほど問題化する話ではあるまい。焦点は参院議員の数が春季例大祭の際のように168人を上回るかどうかであろう。自民党は参院選圧勝で人数が増えており、上回る可能性もある。168人と言っても国会議員総勢722人のうちの22%であり、78%は参拝しないことにも、中韓両国は目を向けるべきだ。日本は自由の国であって、議員の個人的な行動に口を挟む国の方が異常と心得るべきだ。その是非は民主主義国では有権者が判断するのだ。その中国の対応がどうなるかだが、そもそも日中間には「首相、外相、官房長官が参拝しなければ問題としない」という暗黙の了解がある。年に1回参拝した小泉純一郎を除けば、中曽根政権以来35年間この暗黙の了解が効を奏してきた。ところが、対日強硬姿勢を内政上の“売り”にしている習近平がこれを踏襲するかは定かでない。現に、中国外務省報道官は「どんな方法、どんな身分であっても、参拝は日本の軍国主義的な侵略の歴史を否定するものだ」と、すごんでいる。
この中国の姿勢は、国際的に常識である他国民の「信教の自由」を侵害しようとするものであり、不当なる内政干渉に当たることは言うまでもない。しかし、安倍以下の4閣僚が参拝しないのであるから、そこは日中正常化を求める日本政府の意思が働いていると受け止めるべきであろう。中国はこれを奇貨として、関係改善に転ずるべきだ。9月初旬のG20で両国首脳同士の“接触”を最低限実現すべきである。習近平もこの機会を逃すと、無用な緊張を持続させるだけだと判断すべき時である。そもそも靖国参拝問題は、尖閣で日中関係を極右の石原慎太郎がめちゃくちゃにしたように、たった一人の宮司が元凶となっている。1978年にA級戦犯14柱をこっそりと合祀してしまったのだ。それまで昭和天皇は靖国参拝を恒例行事としてきたが、以後参拝は途絶えた。マスコミが騒ぎ出したのもそれ以来である。安倍は国内的には「国のために殉じた英霊に尊崇の念を表明するのは当然」と繰り返しており、それなりの説得力があるが、米国への宣伝能力に欠如が見られる。ワシントンポストの社主キャサリン・グラハムと会食した首相・中曽根の例を見習って、人脈ルートを模索すべきである。どうも米国のマスコミは中国と韓国の宣伝工作に引っ張られている感じが濃厚だからだ。
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