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2013-07-31 00:00
どう読むか、どう言うか
藤崎 一郎
上智大特別招聘教授・前駐米大使
朝鮮戦争休戦協定60周年のニュースを見ていた。いくつかのチャンネルで解説者や研究者が出てきて、予想通りのことを言った。すなわち「北朝鮮は、休戦協定をはやくアメリカも当事者とした平和条約に代えたいんです。北朝鮮はそれが安全保障上、必要だと考えています。だからなんとかアメリカを交渉にひっぱり出したいと考えています」。やれやれ、と思う。これでは北朝鮮の発表どおりではないか。これが解説です、というなら首をかしげざるを得ない。いくつか疑問を書く。
まず北朝鮮のように約束というものを扱う国が、外国からの一片の紙を信頼して自国の安全を守ろうとするだろうか。米国と交渉すれば、当然非核化やミサイル発射制限を要求される。それなくしてアメリカが一方的に平和条約を与えるはずがないではないか。それで北朝鮮にとって釣りあいがとれると考えるだろうか。こう言うと、でも現に北朝鮮は平和条約を要求しているではないか、米国との直接交渉を要求しているではないかという答えが返ってきそうである。これは私のゼミの教材として使えるな、と思ってしまう。にわか教員となった浅学菲才の私がいま大学院で教えようとしているのは、事実関係や理論ではない。うら読みと圧縮である。うら読みは米国大統領の演説でもなんでも額面どおりには受け取らないで、背景を考えながら読んでみようということである。圧縮は、ポイントを簡潔に整理して口頭、文書で表現することである。
上のニュースをうら読みすればつぎのとおりである。北朝鮮の至上命題は政権の延命である。経済を開放したらただちに国民が長年だまされていたことに気づく。簡単に開放なんてできるはずがない。また政権維持のためには、牙が必要であり簡単に「武装解除」はできないと考えていよう。ではなぜ米と平和条約の交渉をしたがるのか。相手が議会その他の都合で出せないものを要求するのは交渉のいわば常道ではないか。そうすれば応じないのは相手だとアピールできるし、あとから一段とひくい要求を出して自らは譲歩したので代償が必要だと主張できる。交渉が長引けば、時間稼ぎできて政権延命にも資するし、その間に核開発したり、ミサイルを発射実験できる。あわよくば食糧エネルギーも得られる。私はこの解釈のみが正しいとは言わない。でも少なくとも相手の言ったことをオウム返しに繰り返すのでなく、自分なりに咀嚼し、論理を組み立てる努力のあとが見られるだろう。
もうひとつ教えていることが圧縮である。長々と本質にかかわらないような事実関係を書かないで、ポイントのみ把握して整理する。どんな組織でも上の人というものはせっかちである。「書きたいこと」「言いたいこと」でなく「読みたいこと」「聞きたいこと」をまとめてみようということである。学生は、たった数ヶ月の演習でずいぶん変わった。私はいまの若い人も捨てたもんじゃあないなと思い始めている。
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