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2013-06-11 00:00
歴史認識問題を持ち出して足を掬われるな
若林 洋介
学習塾
オバマ・習近平の米中首脳会談は、2日間、長時間(8時間)にわたって議論された。米中間にはサイバー攻撃問題など、さまざまな問題を孕んでおり、具体的成果がどれ程のものかは疑わしいが、両大国首脳が長時間にわたってしっかり議論したということ自体が大きな進展と見るべきであろう。昨年、中国共産党主席に就任したばかりの習近平体制を強化することにおいても大きな意義を持つものであった。尖閣問題も議題に上ったとされているが、そうなると当然習近平は、日本の安倍首相の歴史修正主義の問題も話題に持ち込んだことは容易に想像される。今年4月末の安倍首相の「侵略の定義は定まっていない」という発言や、村山談話、河野談話に対する否定的な安倍政権に対する疑念も持ち出されたに違いない。歴史認識問題を持ち出すことによって、日米の同盟関係に対してしっかりクサビを打ち込んだに違いない。そこは中国のしたたかさから考えても当然であったろう。韓国のパク大統領もオバマ大統領との会談においては歴史認識問題を提起し、米国議会において日本政府を批判したことは記憶に新しい。
またこの流れは、4月末以来のNY・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナルなどのリベラル系・保守系双方からの安倍首相の歴史修正主義に対する国際世論の批判の流れが背景にあり、今回の米中首脳会談における中国側の主張に絶好のチャンスを提供してしまった。かつて明治・大正・昭和初期に米国のエール大学で教鞭をとった歴史学者の朝河貫一は、著書『日本の禍機』(1909年)において次のように日本国民に警告を与えている。「読者は、民主国における言論の勢力を侮らざらんことを要す。万一好機到来ならば、これらの説のあるいは民心を支配し、あるいは議会を制して、これがために止むを得ず政府もまた心ならざる挙動に出ずるがごときこと、断じてこれなしというべからず。もしここに至らば、これ実に公明正大なる(セオドア)ローズヴェルト氏(親日派・大統領)の思想の一部が、民間に誤られ曲げられて日米の関係を危うくするに至るものなりというべし。豈(あに)懼(おそ)れざるべけんや。」
つまり、伝統的にも米国外交における世論の力は非常に大きなものがあり、場合によっては大統領さえも自説を曲げざるを得なくさせるほどの影響力を持っているということなのである。4月末から5月にかけての米・英ジャーナリズムの安倍首相批判は、日本政府への国際的な不信感情を醸成し、今後ともボデイ・ブローのように日米の同盟関係に影を落とすことが憂慮される。また安倍首相は、小泉=ブッシュ時代のような共和党政権と、民主党のオバマ政権とでは対日外交のスタンスが違うことも考慮せざるを得ないはずだ。安倍首相の「自由と民主主義」を共通とする価値観外交が、歴史認識問題によって日韓関係、日中関係のみならず日本外交の基軸である肝心要の日米外交さえも揺るがしていることを忘れるべきではない。
また中国共産党の情報戦略としても歴史的には、抗日戦争時代、エドガー・スノウやアンナ・ルイズ・ストロングなどの容共ジャーナリストを使った反日宣伝工作によって、米国世論を味方につけることに成功したことが想起されるではないか。安倍首相は、4月末以降、歴史認識問題をめぐっての自らの発言が、いかに日本の国際的信用を損なうものであったのか、また日米同盟にクサビを打ち込もうとする中国を利するものであったのかを真剣に受け止めなければならない。
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