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2013-06-10 00:00
シリア問題で地域大国を目指すトルコ
川上 高司
拓殖大学教授
5月16日、トルコのエルドガン首相はホワイトハウスでオバマ大統領と会談した。当然ながら主要かつ緊急の議題はシリア問題だった。アメリカの軍事介入を希望するエルドガン首相が派兵はしないと表明しているオバマ大統領をいかに説得するか、が注目された。16日の夕食会には、トルコ側はエルドガン首相、アフメト・ダヴトギュル外相、ハカン・フディン情報局長が出席、アメリカ側はオバマ大統領、ケリー国務長官、ドニロン国家安全保障担当補佐官が出席し3時間に及ぶ会談が行われた。
トルコによれば、情報部門のトップがこのような会談に同席するということ自体が、会談の重要性と議題の複雑さを表しているという。フディン情報局長はシリアの内情に詳しい上にハマスやファタハなどのイスラム組織の情報にも精通している。シリア問題では、アサド大統領なき新体制を望んでいる点ではアメリカとトルコは一致している。争点は、シリア政府が化学兵器を使用したからアメリカが軍事介入するべきだというトルコと、派兵はしないというアメリカの根本的な方針の違いだろう。
フディンは化学兵器が使用されたという書類を提示したものの、相変わらずオバマ大統領は「証拠の精査中」とかわした。シリアの内戦がアメリカの軍事介入によって地域に拡大して地域戦争にもなりかねない緊迫した状況にあるため、オバマ大統領としても慎重な姿勢を崩すわけにはいかない。地域の問題に関与することを極力避ける外交方針を貫きたいことに加えて、ノーベル平和賞の受賞者が戦争を引き起こすという最悪の事態は避けたいに違いない。トルコとの会談ではイスラエル・パレスチナ問題やイラン問題なども取り上げられた。これらの地域の問題でトルコの果たす役割は大きくなっている。
一方でトルコが抱えるクルド人問題にくぎを刺すこともオバマ大統領は忘れなかった。エルドガン首相はおそらくその指摘を予測していたに違いない。クルド人との和平では目に見える成果を訪米前に上げておいてしっかりアピールした。トルコはトルコ内のクルド人過激派組織PKKと和解しPKKはイラクのクルド自治区へと移動したのである。そしてクルド自治区とトルコは資源開発で協力体制を強化することで合意した。この動きにイラク政府とアメリカは「イラクの分裂を促す」と強い不快感を示している。シリアに限らずパレスチナ問題でも欠かせない存在となっているトルコは、イスラム教国家と民主主義国家の両面を実現し東西の交差点という地政学上の利点を活かして、着々と地域の要となりつつある。
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