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2013-05-30 00:00
沖縄県連の“普天間独走”で自民苦境
杉浦 正章
政治評論家
安倍政権が「ルーピー鳩山」と類似の落とし穴に落ちそうになっている。普天間移設をめぐり自民党沖縄県連が5月27日、地域版公約に「県外移設」を明示、党本部に容認を迫っているからだ。もし容認すれば首相・安倍晋三の外交・安保戦略の1丁目1番地を否定することになる。元首相・鳩山由紀夫が「最低でも県外」を二転三転させて、71%の支持率が17%に急落したのと同じケースだ。ことは一地方選挙区における勝敗の問題ではない。野党は全国レベルのキャンペーンに使おうと、手ぐすねを引いて待っている。自民党執行部は安易な妥協をすべきではない。公認を取り消してでも、国政の核心を維持すべきだ。とにかく、沖縄県連は視野狭窄(きょうさく)としか言いようがない。昨年の衆院選挙でも地域版公約で「県外」と書いたから、参院選も「県外」と書かなければ負けるというのだ。昨年の総選挙は自民党が野党としての立場であり、便宜的対応はいわば許容の範囲内だった。しかし安倍政権が成立したいま、普天間の辺野古への移設は最重要政策課題として動き出している。安倍は2月の訪米で大統領・オバマに普天間早期移転を確約した。3月には辺野古沿岸部の埋め立てを県知事に申請している。移転へのスケジュールは動き出しているのである。
これに対して沖縄県連は、年明けから選挙に勝てないことを理由に「県外移転」の主張を強め始めた。政府・与党は3月に幹事長・石破茂、4月に官房長官・菅義偉、5月に政調会長・高市早苗を派遣して、説得を試みたが、納得を得られないまま。ついに、県連は27日の議員総会で「県外移転」を決定してしまったのだ。県連幹事長・照屋守之が上京して党執行部に報告する。このまま党本部が認めれば、超重要政策で党本部と県連が決定的にねじれたまま総選挙に突入することになる。これは政権党として絶対にあってはならない姿だ。なぜなら、自民党は鳩山の選挙公約「最低でも県外」が、オバマへの「トラスト・ミー」に大転換して、さらに二転三転して結局「辺野古移設」へと戻ったことを、倒閣の最大の材料として攻撃した経緯がある。鳩山は抱える矛盾にひとたまりもなく総辞職する羽目に至ったのだ。まさに因果は巡る火の車で、今度は自民党に降りかかってきたのだ。
このため石破は「調整がつかないまま選挙に突入することはあってはならない」と警戒感を隠さない。もちろん普天間移設推進論の石破にしてみれば県連の“独走”は目に余るものがあり、「基本的に地方の公約は、地方の行い得る権能の範囲内で書くべきだ。外交問題は内閣の専権事項だ」と不快感をあらわにしている。ところが候補者の社会福祉法人理事長・安里政晃は記者団に「自民党員である前に、ウチナンチュ(沖縄人)なので、ウチナンチュの声を代弁していくのが当たり前だ」と開き直っている。国際感覚はゼロであり、それならば離党して“ウチナンチュ党”から出れば良いのだが、自民党の組織はフルに活用したいのだ。
自民党幹部の中には「沖縄の選挙で勝つためには、独自に『県外移設』を掲げることもやむを得ない」という安易な容認論がある。また自民党の参院選公約そのものを普天間移設に直接的な言及を避け「在日米軍の再編を進める中で抑止力の維持を図る」などといった抽象的表現でお茶を濁す構想もある。しかし、問題を言葉の操作で糊塗しようとしても無理がある。県連は「普天間の辺野古移設反対、県外移設賛成」で選挙を戦うのであり、新聞テレビの焦点はここに集中することは避けられない。本部と県連のねじれはまさにマスコミの“好餌”となってしまうのだ。これを民主党など野党が見逃すはずはない。野党がこの自民党政権内のねじれを絶好の攻撃材料とすることは確実視されるのだ。問題の核心は、沖縄の選挙区だけに限定され得ないことなのである。普天間移設問題が国政選挙の争点として浮かび上がるという事を意味するのだ。そうなれば、事は沖縄選挙区の問題にとどまらず、全国規模で自民党圧勝ムードにブレーキをかける要素になりかねない。ここは自民党執行部が腹をくくるときではないか。小の虫を殺して大の虫を助けるのだ。県連が妥協しなければ候補者の公認を取り消してでも、スジを通すときだ。公約に普天間移設の方針を貫徹する方向で統制をとるべきだろう。
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