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2013-05-29 00:00
「市場閉鎖性」の自虐史観排しTPPで攻めに転じよ
田村 秀男
ジャーナリスト
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への参加が確実になった。そこで気になるのは、国内メディアの自虐史観である。1980年代から90年台半ばにかけ、米政府のネゴシエーターは執拗に「日本市場は閉鎖的」と喧伝した。このイメージが刷り込まれた日本の主流経済メディアが、しきりに「開国」論を唱える。特定の分野を保護する「聖域」はどの国にもある。米国の場合、自動車産業がそうで、日本でいう「自動車」は米国の関税分類では「自動車」とライトトラックに分かれる。
「自動車」には2.5%、ライトトラックには実に25%の関税が適用される(日本はいずれもゼロ%)。ライトとは言葉の上では「軽」だが、正体は違う。大型の高級スポーツ用多目的車(SUV)をはじめ、バン、ピックアップトラックまで含まれ、ゼネラル・モーターズ(GM)などビッグスリーの主力収益源だ。米公式統計によれば、全米のライトトラックの出荷額は2012年1609億ドルに上り、乗用車の1072億ドルを6割も上回っている。保護関税がなければビッグスリーはとっくに壊滅していたはずである。関税ゼロにすれば、米国内のライトトラック価格は理論上25%下がる。米国の消費者が負担するライトトラックの割高分を単純計算すると、年間3兆8000億円に上る。
日本はコメの輸入関税778%をはじめ、高関税によって多くの農産物が保護されているのだが、OECD(経済協力開発機構)の試算によれば、高関税などに伴う消費者からの生産者への移転額は11年で3兆7000億円である。米国のライトトラックと日本のコメなど農業保護規模はどっこいどっこいなのである。米通商代表部(USTR)は相手国の保護策を責め立て続け、企業、投資家の権益拡張を狙う。USTRの背後にいる「TPP支持米国企業連合」の顔ぶれを見ればよい。金融、通信、石油、建設、航空機、情報技術(IT)、医薬品、農業ビジネスなどの大手がひしめいている。そして官民ともども投資家対国家の紛争解決(ISDS)条項や医薬品などの知的財産の権利強化に重点を置く。
日本国内ではISDSについて、海外の投資家から訴えられると、国内法が通用せず、国際紛争処理機関の場で莫大な損害賠償をのまされるという被害者意識に染まっている。ISDSは知的財産権ともども、国際ルール無視の中国に対する日米共同の武器にできる。その方向に向け、ISDSを日本にとって運用しやすい形に持っていく攻めの策略をこらせばよい。だが、日本メディアの自虐史観に乗じた交渉相手国から攻め込まれる日本の通商交渉団は防御に汲々となりそうだ。「聖域」=「鎖国」のデマをわが同業メディアから一掃して初めて、TPPを最大限活用できる道が開けると考え込まされる。
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