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2013-05-27 00:00
自民党ハト派が絶滅危惧種となった
杉浦 正章
政治評論家
「鷹化して鳩と為る」は俳句で春の季語だ。殺意ある鷹が春には温和な鳩に変わるという中国古来の伝承に基づいている。チョー難しい季語で、筆者などまだ一句も作っていない。だがさすがに一茶だ。「新鳩よ鷹気を出して憎まれな」というユーモアたっぷりの俳句を作っている。そのタカ派の首相・安倍晋三が「ヤバイ」と感じたか、「鷹」を封じて「鳩気」を出している。4月には「村山談話はそのまま継承しているわけではない」「侵略の定義は定まっていない」とタカ派丸出しだったのが、5月は「侵略についても、植民地支配についても、否定したことは一度もない」である。維新共同代表・橋下徹は置いてけぼりをくらって、さぞや恨んでいるだろう。まさに「新鷹よ鳩気を出して恨まれな」である。そのハトだが、自民党のハト派はまさに絶滅危惧種に指定されそうな状態である。人がいないのだ。元幹事長の古賀誠や加藤紘一が引退、後はハト派にろくな政治家がいない。外相・岸田文男が池田派以来の名門派閥「宏池会」の会長だが、見たところ外相をこなすのに青息吐息で、とてもハト派の雄の力量はない。まるで「自民党総安倍派」の様相だ。
自民党のハト派と言えば、強弱の差はあるが吉田茂系の政治家であり、タカ派の岸信介系の政治家と好一対をなしてきた。とりわけ岸が安保条約締結で左翼の暴動を引き起こして退陣、これに危機感を覚えた自民党が急きょ吉田系の池田勇人の「低姿勢内閣」でしのいで以来、ハト派首相がタカ派首相を数において圧倒してきた。吉田学校の流れは、池田派と佐藤栄作派に分かれ、両派を保守本流と称する。池田系の首相は池田、大平正芳、鈴木善幸、宮沢喜一。佐藤系は田中角栄、竹下登、羽田努、橋下龍太郎、小渕恵三と合計10人に達する。これに対して、タカ派岸系は福田赳夫、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫の5人だ。なぜ隆盛を極めたハト派が絶滅状態になったかと言えば、まず背景には国際環境の大きな変化が指摘できる。吉田以来のハト派は国際協調主義が基本であり、安全保障は軽武装で専守防衛に徹して、アメリカの傘の下に入る。もっぱら中国など周辺諸国とは協調路線をとり、経済成長に専念して国民の支持を集めてきた。しかし周辺国家の軍備拡大、とりわけ中国の臆面もない膨張主義による海洋進出と北朝鮮の核武装・ミサイル保持は、冷戦時代のように(ソ連の核に備えて)米国の核の傘があれば、それだけで良い時代ではなくなった。
日米安保条約はあっても、尖閣問題や北の核ミサイルの脅威に対しては、まず自分の国は自分で守る体制を作り上げるしか手段はないのだ。こうした国際環境の激変は、国民の意識にも変化をもたらし、旧社会党のような絶対平和主義は影をひそめた。国全体が右傾化の傾向をたどり始め、イデオロギー政党は影をひそめた。いまやハト派が左翼のような立ち位置となってしまっているのである。こうした風潮を受けて、安倍は憲法改正発言を繰り返し、集団的自衛権の行使を米大統領オバマに約束し、敵基地攻撃能力をF35戦闘機を中心に構築する姿勢を見せる。もはや参院選挙では、自民党が改憲を選挙公約に取り上げようが、取り上げまいが、改憲が与野党の争点となるのは必至の状況だ。最大のポイントである経済再生についても、アベノミクスで歴代政権がなしえなかったデフレ脱却への希望を生みつつある。国民の支持は圧倒的であり、憲法改正に関しても、世論調査は「改正」を是とする回答があらゆる調査で「反対」を上回っている。
こうしてハト派は押しまくられている状態だ。リベラル、中道、護憲の主張は自民党内で鳴りを潜めてしまった。後藤田正晴のような説得力のある論客も今はなく、最近ハト派の重鎮・古賀がテレビによく出始めたと思ったら、元官房長官・野中広務らと6月2〜4日に中国を訪問する予定であるという。そのための“秋波”を事前に中国に送る必要があるのだろう。古賀はテレビでしきりにハト派の健在を訴える。村山談話に否定的な政調会長・高市早苗発言について「高市さんは本当に分かっているか疑問だ」と軽蔑的な発言をするかと思うと「保守本流と自負して平和憲法、平和主義を貫く」と意気軒昂。しかし、背広にバッジがついていないのでは、“フツーの人”だ。迫力に全く欠ける。加藤紘一も「改憲には時間をかけるべきだ」と発言するが、しょせんはバッジがなくては犬の遠吠えだ。「慰安婦連行には強制性がみられる」との河野談話を「証拠なしに」作り、本来なら矢面に立つべき当事者・河野洋平も、2009年には引退した。こうして自民党内は、幹事長・石破茂が安倍に勝るとも劣らぬ改憲・自衛隊増強論者であり、安倍が右寄りを意識して抜擢した高市とともに、タカ派執行部を形成する。ハト派が動いてバランスをとる流れがなかなか台頭しにくいのである。
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