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2013-05-22 00:00
(連載)日本こそアメリカとアジアを守る防壁である(2)
河村 洋
外交評論家
ここで私が指摘したいことは、ケリー国務長官に書簡を送った8人の上院議員はイラク、アフガニスタン、シリアそしてイランでのオバマ氏の中東政策にはきわめて批判的である。この事実から、オバマ政権の中東への関与を弱める方針がアジアへの関与の強化につながるものではないことがわかる。中東で宥和姿勢のアメリカは、アジアでも宥和姿勢になるものだ。日本とアジア太平洋諸国の政策形成者達は、アジア転進政策などを無条件に歓迎するよりも、こうしたことを銘記すべきである。先述の両人はさらに、「ケリー氏は北朝鮮対策で中国の協力を取り付けるためにはアメリカのミサイル防衛システムの撤去さえ考慮している。中国は北朝鮮問題で不可欠なパートナーだが、西側民主国家による世界秩序に挑戦を突きつけている核大国である。抑止力を撤去してしまうことはアメリカのアジア太平洋政策で利益にはならない」としてオバマ政権の方針に不安を述べている。
そうした不安を高めるのが先のマーティン・デンプシー米軍統合参謀本部長と房峰輝人民解放軍総参謀長の会談で、中国側は米中軍事協力の推進には三つの障害があると言ってきた。その障害とは、アメリカから台湾への武器輸出、米軍による中国への偵察、そして対中武器禁輸である。さらに最近の人民解放軍白書で中国は名指しこそしないものの、アメリカが地域の緊張を高めていると非難している。しかし全世界と域内で緊張を高めているのは中国であり、中でも東シナ海と南シナ海の洋上での威嚇行為とサイバー攻撃が深刻である。ジョン・マケイン上院議員が、昨年5月22日付けの『ディプロマット・マガジン』で主張したように、「アジア諸国民はアメリカの力、アメリカの価値観、そしてアメリカのリーダーシップで形成された世界での生存繁栄を望んでいる」のだが、中国がアメリカの覇権に真っ向から挑んでいる。
政治家達は中国に対して挑発的な語句を注意深く避けているが、ジョセフ・ボスコ元国防長官官房室員は、2011年11月26日付けの『ウィークリー・スタンダード』誌で中国を脅威だと明言している。中国は富裕、強大、自信過剰になり、国際体制がもたらす便益と西側の寛大な対話政策を利用しながら自己主張だけは強くなっていると警告する。これは、アジア太平洋地域の国際海域で航行の自由を侵害する中国の態度に典型的に表れている。日本は地理的に中国の膨張を食い止めるには最も理想的な位置にある。人道的な観点も中国の拡張主義への対処で重要な課題である。そうした観点から注目すべきは、ペンシルバニア州立大学のキリク・カナト助教授が、5月9日付けで『ザ・ニュー・ターキー』誌に寄稿した論文で、そこでは「アメリカと西欧同盟諸国は今年の4月に起きたカシュガル衝突事件に典型的に見られるようなウイグル人に対する中国の抑圧を見過ごしてはならない」と論評している。
カナト氏は、人権と自由に考慮を払わずに商業利益に重きを置いたアジア転進政策では「この地域全体に人道上の災いをもたらすばかりか欧米民主主義諸国の政策の正当性にも危機をもたらす」と述べている。このメッセージは主としてアメリカ人とヨーロッパ人に向けられたものであるが、日本とアジア民主主義諸国の政策形成者達も銘記すべきものである。安倍政権が打ち出した 「安全保障ダイアモンド戦略」では、人道主義の価値観が重要な柱である。何はともあれ、中国への単純な恐怖感からアジア転進政策を無条件に歓迎すべきではない。先に挙げた8人の上院議員の書簡の例に見られるように、アメリカが中東への関与に消極的ならアジアでも宥和政策に走る。日本の政策形成者たちは、オバマ現政権との連絡を密にするのと並行して、アメリカの超大国の自殺行為に危機感を抱く国防増強論者や国際介入主義者達とも強い関係を築く必要がある。それこそが、日米両国のみならずアジア太平洋民主主義諸国の重要な国益を増進させるのである。(おわり)
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