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2013-05-21 00:00
(連載)日・NATO共同政治宣言は対米イエローカード(2)
加藤 朗
桜美林大学教授
さらに専門家もあまり注目していないが、両条約の第一条、第二条は句読点(英文ではピリオド、カンマ)まで含めてそっくりである。第一条は国連の枠組みの中に条約があることを明記しており、同じ内容になることはある意味当然である。注目すべきは新安保条約の第二条である。第二条が経済条項であることはよく知られている。この条項は軍事的色彩を薄めようとした岸元首相の意向に沿ってアメリカがNATO条約の第二条をそっくりそのまま挿入したのである。この経済条項の故に日本とNATO諸国は経済同盟の関係にあると言ってもよい。
日米安保は集団的自衛権問題さえ解決できれば、NATOとの集団安全保障体制に実質参加できる。それほどに両条約の内容はそっくりである。実際、今回の共同政治宣言は集団安全保障体制参加への動きの一歩とも思えるほど国際紛争での協力関係を謳っている。日米安保とNATO条約はアメリカを媒介項としてつながってきた。冷戦時代は対ソ軍事同盟であり経済同盟であり何よりも価値(イデオロギー)同盟だった。
価値同盟としての日、米、NATOの間にひびが入ったのは、米中国交回復の時である。ヨーロッパの勢力均衡の旧い政治から決別したはずのアメリカが、キッシンジャーの勢力均衡外交(ニクソンが主導したと最近ではいわれているが)によって、価値を共有しないはずの中国と、独ソ不可侵条約締結のような、事実上の対ソ軍事同盟を締結したのである。この時明らかにアメリカは、三者の間にある「民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配」の原則を無視したのである。そして現在キッシンジャーをはじめ一部の親中派は、今またこの基本原則、共通の価値を無視して、まるで秘密協定を結んでいたかのように、単に力の論理のみで中国との覇権の共有を画策している。アメリカが共有すべきは日本やNATO諸国との「民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配」の価値であって、中国との権力政治ではない。
今回の日本・NATOの政治共同宣言は、日本とNATOが国際紛争の解決で協力する安全保障同盟でありまた価値同盟であることを確認した。また同宣言は、中国に対するけん制というよりもむしろ権力政治を志向し、「民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配」の価値同盟を否定しかねない対中政策を志向するアメリカへのイエローカードである。(おわり)
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