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2013-04-05 00:00
(連載)イラク戦争から10年:その検証(2)
川上 高司
拓殖大学教授
イラク復興には膨大な資金がつぎ込まれたが、その行き先が不透明であることも特徴だった。資金の行き先は国防産業であった。戦費の重圧にアメリカ社会は押しつぶされたが、国防産業はバブルに沸いたのである。まさに一人勝ちだった。イラクでは駐留兵士よりもコントラクターの従業員数が多いというアメリカ戦争史上初めての事態が発生したほどだ。その中でも民間軍事会社は際だった。他には建設・支援分野と兵器製造分野の企業が恩恵を被った。建設・支援分野で業績を伸ばしたのがKBRやハリバートンだろう。ハリバートンはイラクの油田建設関連の仕事を請け負っていたが、やがて陸軍の兵站を担うようになる。基地の建設から食事の提供、洗濯サービスまであらゆることをハリバートンは担い、2002年には4億8,300万ドルだった契約は2006年には60億ドルへと拡大した。他にもベクテルやパーソンズなどの国防企業がイラクの混乱に乗じて参入してきたが、国防総省も政権もだれもコントラクターを統括できなかった。
当然ながら兵器製造企業も大きく業績を伸ばした。ロッキード・マーチン、ボーイング、ノースロップ・グラマン、ライセオン、ジェネラル・ダイナミクスの企業は兵器だけでなく情報分野でも主流を占めた。監視システムや偵察衛星などの本来ならCIAのような国家の情報部門が行う収集活動の大部分をこれらの民間企業が請け負ったのもイラク戦争の特徴のひとつである。アメリカだけでなくイラクという国自身がもっとも影響を受けたのはいうまでもない。ブッシュ政権はイラクの民主化を目指したが、イラクの払った犠牲は大きかった。2003年の開戦以来2011年までに失われたイラク人の命は12万6,000人と言われている。それだけでなく、負傷者や国外へ逃れたイラク人も多数いるのでその人的な損害だけでなく社会が被った影響は計り知れない。そしてイスラム過激派がイラクへと流入して、熾烈なシーア派とスンニ派の闘争が始まった。
これだけの代償を払って得た新生イラクはどうなっているのだろう。バグダッドでは相変わらず自爆テロが発生している。イラク人の中には、フセイン時代のほうがましだったと考えている人もいる。スンニ派は昔がよかったと思い、シーア派は現在の政権がいいと考えている。宗派の溝はますます深くなっているのである。10年たってもイラクは安定しない。イラクもまた負の遺産を背負ってもがいている。イラクの問題はアメリカの問題でもある。イラク戦争は始めるのはそれほど難しくなかった。だが終わらせることとその「負の遺産」を背負い続けることは難しいことを明確に教えてくれた戦争だった。そしてアメリカはもうひとつの戦争、アフガニスタンでの戦争を終わらせその「負の遺産」もまた背負っていかなければならない。
それだけではない。ブッシュ大統領が始めた「テロとの戦争」はグローバルにイスラムテロリストを殲滅させる闘いだが、こちらも終わってはいない。オバマ政権は、パキスタンやイエメンで無人爆撃機によるテロリスト暗殺に力を入れている。最近では無人爆撃機による空爆は国家の主権侵害であるという違法性が問題となり、人道的見地からの批判もアメリカ国内外で高まっている。終わりの見えない闘いはいつまで続くのか、誰も答えを知らないのである。そしてその遺産もまたアメリカはいつまで背負っていくことになるのか、だれにもわからないのである。(おわり)
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