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2013-04-02 00:00
オバマ2外交の「指南書」
高畑 昭男
ジャーナリスト
米国のブルッキングス研究所といえば、過去の民主党政権などに多くの人材や政策構想を提供してきた大手シンクタンクの一つだ。 そのブルッキングスが、オバマ政権2期目発足直前の1月中旬、「2期目の外交政策提言」と題する提言書(全文95ページ)を公表した。政権の衣替え期に、数あるシンクタンクが提言を競い合うのは珍しくもないことだが、興味深いのはオバマ大統領がこの提言書をかなり取り入れている節があることだ。提言書は「ビッグ・ベッツ(大きく賭けよ)」として、具体的に11項目の推奨政策を挙げた。このうち「自由貿易」の項では、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉を年内に妥結させることと並行して、欧州とも環大西洋自由貿易協定を進め、来年の中間選挙までに合意をめざすよう勧めている。
この1カ月後、一般教書演説でオバマ氏が2期目の目玉として「欧州連合(EU)との包括的貿易・投資協定交渉に着手する」と述べ、提言とほぼ寸分変わらぬ政策を発表したのは周知の通りだ。また「シリア問題」では、「混迷を放置するとテロなどの温床になる」とし、国際社会が認める反政府組織に対して武器供与を含めた本格支援に乗り出すよう勧めている。これも、提言書に沿った方向で米政府が動き始めている。中でも注目すべきは、「中国を引き戻す」という対中戦略だ。1期目のオバマ政権はクリントン国務長官を軸に、軍事・安保面での「リバランス」(均衡回復)をめざして対中牽制と包囲網建設に動き出した。提言書はその成果を認める半面、「中国を疎外しすぎた」との趣旨でアジア太平洋重視戦略を「リバランス」(再修正)し、対中協調へ軸足を移すよう提唱している。せっかくの均衡回復戦略を再修正せよ、というわけだ。その理由は、アメリカの経済的利益にならないからだという。地域諸国は米国の安保強化を歓迎する一方で中国との経済関係を拡大し、「経済利益は地域諸国と中国が享受し、米国だけが安保コストを担う損な役回りにある」という。
さらに、「東アジア海洋安保」という項目では、尖閣諸島を念頭に「小さな島や岩をめぐって米国が戦争に巻き込まれては何の得にもならない」「衝突回避が最も重要」などと主張しており、かつて日本の左派世論がベトナム戦争などの際に唱えた「巻き込まれ回避論」に近いような指摘もある。「牽制から協調重視へ」という勧めは、その後、ケリー新国務長官が上院の指名承認公聴会などで表明した見解と驚くほど共通しているのがとくに気になる。背景には、「習近平新体制を刺激せず、もっと抱き込め」といった配慮も感じられる。筆者陣には、1990年代末のクリントン政権時代の顧問や補佐官らの名もみえる。提言書は「オバマ2外交」の一つの指南書といっていい存在なのかもしれない。
確かに、冷戦時代のソ連とは異なり、日米が中国の台頭に向き合う際には「抑止・牽制」と「協調」の適切なバランスが欠かせない。だが、当時と比べ、今の中国は世界第2の軍事大国に大変身し、好戦的ともいえる強圧的姿勢を隠そうともしない国であることを忘れては困る。先の日米首脳会談で、安倍晋三首相は「強い日米同盟」の再構築をオバマ大統領と確認しあった。だが、肝心の米国の軸足が揺らいでは台無しだ。それでなくとも、米国は国防費削減圧力にさらされている。安保のコストをどう分担し、「牽制」と「協調」の均衡をどこに置くか。日米でしっかり検証し、話し合うべき課題だ。
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