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2013-03-23 00:00
東アジアにおける教育分野交流の特別の重要性
菊池 誉名
日本国際フォーラム主任研究員
安倍首相は、さる1月の東南アジア歴訪の際に「対ASEAN外交5原則」を発表し、その中で「未来を担う若い世代の交流を更に活発に行い、相互理解を促進する」と打ち出した。日本は、これまでも日中韓およびAPTの枠組みにおいて、文化交流、特に教育分野における交流を推進してきたが、この首相の方針により、東アジアにおける教育交流のさらなる活発化が期待される。なぜなら、教育分野の交流の拡大こそは、悪化している東アジア諸国間の緊張関係を、長期的展望をもって将来的に緩和していく最大の要因だからである。
日中関係だけを見ても、昨年は尖閣諸島問題を巡って中国国内で大規模な反日暴動が起こっただけでなく、中国海軍によるレーダー照射事件などもあり、近年で最悪レベルの緊張関係にいたった。こうした中国側の行為を加速させているのは、政府による計算された戦略よりも、いわゆる愛国主義教育によって植え付けられた傲慢なナショナリズムである。日本としては、この問題に関して中国側に改善措置をとるよう求めていくことは当然であるが、それに加えて、こちらからも事態改善のための様々な働きかけをしてゆくべきであろう。そのための手段として有効なのが、留学生の交換などによる教育分野の交流である。各種の調査によると、日本に来た中国人留学生の来日後の「対日観」は、来日前より好転しているとの結果がでている。そうした留学生が、やがてそれぞれの分野でリーダーとなっていくことを考えると、長期的にはこうした人と人の交流促進が、友好的な国家間関係に大きく寄与するとみられる。
こうした取り組みとして、日本は、日中韓の枠組みにおいては「キャンパス・アジア」というプログラムを設立し、3カ国の大学で単位認定や成績評価を共通化するなどして、共通の枠組みの中で相互に学生を派遣し、受け入れることを始めたところである。また、ASEAN域内で留学生の移動を促すために10年以上前から運営されてきたASEAN大学ネットワーク(AUN)を、+3にも広げ、AUN+3として新たにスタートさせることにも協力している。今後これらの政策をさらに有効なものとするためには、各国の教育レベルの質の保証を充実させるとともに、「キャンパス・アジア」をAPTの枠組みへ拡大させることなども検討していく必要がある。また、こうした政策を推進させるための、政府と民間教育機関の協力・連携の深化も重要となるであろう。
東アジアでは、奇跡的ともいうべき経済成長が続いているが、今後もそのような繁栄を維持するためには、同時に安定した国家間関係を維持していく必要がある。極端な愛国主義教育によって、こうしたアジアの繁栄を危機にさらすのは得策ではない。日本は、オールジャパンで教育分野を中心とした人と人の交流を活発化させて、この地域の安定に寄与すべきである。
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