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2013-02-12 00:00
安倍の“奇襲”に狼狽する中国
杉浦 正章
政治評論家
42歳の中国の美人副報道官・華春瑩の5秒間の沈黙が、すべてを物語っている。兵器管制レーダー照射事件で中国政府が首相・安倍晋三の“急襲”を受けた事。人民解放軍と外交部との連絡調整がまったくとれていなかったこと。現場指揮官の判断でやったこと。などなど重要ポイントは、全て5秒間の沈黙で解析可能だ。1月12日で事件発生後1週間が経過し、日中双方ともかいた“冷や汗”が消えないうちに、「対話路線」への転換を進めていかなければならない。世界に放映された「華春瑩の沈黙」は、記者団から「中国外務省は日本が抗議するまで事実関係を知らなかったか」と問われ、わずかに苦悩の表情の伴った沈黙後、「そう考えていただいて結構」と述べたのだ。デビューしたばかりの報道官は、おそらく上から「表情を読まれないよう気をつけよ」と注意を受けたに違いない。逆にすべての鍵はここにある。まず第一に、中国は虚を突かれたのだ。ということは、総書記・習近平を始め共産党、外交部首脳らは、この時点では全く事態を掌握していなかったことになる。これを逆からみれば、習近平はレーザー照射の指示は出していない証拠となる。さらに分析すれば、外交部と人民解放軍との間で事前の連絡調整などは全くなかったこともわかる。それでは軍の独走だったかというと、そうとも言えない。なぜならば、習近平は、11月に共産党とその指揮下にある人民解放軍のトップの座に着いた後、約3カ月にわたって、陸・海・空軍と武装警察部隊の視察を念入りに行い、尖閣問題を念頭に置いたとみられる士気高揚を図りにはかっているからである。
その集大成ともみられる発言が、7日の中国人民解放軍機関紙・解放軍報に掲載された。「部隊は招集されれば直ちに駆け付け、駆け付ければ戦争できる状態にし、戦えば必ず勝利するよう確保しろ」と確信的に扇動している。習近平は、まず軍の掌握に乗り出し、尖閣問題をフルに活用したのだ。現場の指揮官は、こうした発言を真に受けて、はやりにはやってもおかしくない。したがって、習近平の直接の指示はもちろん、 党中央あるいは人民解放軍の上級司令部や総参謀部からの指示命令ではあるまい。習近平に“鼓舞”された艦長など現場指揮官の判断で行われたに違いない。さらに5秒間の沈黙は、人民開放軍が外交部などほとんど相手にしていないことを物語っている。外交部には情報など入れる必要はないと考えているのであろう。これは今後、外交とは別に軍が独走する可能性があることを如実に物語っている。そして中国側は3日間の沈黙の後、ようやく“統一見解”を表明した。華春瑩は打って変わって厳しい表情で、8日「日本の発表は完全な捏造だ。わざと虚偽の事実を広め、中国のイメージをおとしめ、中国の脅威をあおっている。小細工をやめて対話解決の道に戻ることを望む」と捏造扱いした。同時に中国国防省報道局は「一方的に虚偽の状況を発表し、日本政府高官が無責任な発言を行った。『中国脅威論』をあおって、国際世論を誤った方向に導いた」と日本側の虚偽の発表であると断定したのだ。中国は、3日間かかってようやく事を「ねつ造と虚偽」でごまかす意思統一をしたことになる。
この意思統一が意味するものは、決定的に「サギをカラスと言いくるめる」作戦に乗り出したということになる。中国のこの方針を分析すれば、中国自身が兵器管制レーダーの照射は、国際通念から外れた危険な行動である事を事実上認めたことになる。頭からこれを否定することにより、国際社会に訴えようとしている姿を露呈したものといえる。全面否定は自ら「まずいことをやってしまった」と思っている証拠ということになる。これに対して防衛相・小野寺五典は、「電波を発する機械で、しかも(周波数などが)特殊なレーダーだ。それもしっかり記録しており、証拠として間違いない」論。最初のうちは、証拠として提示する意気込みを見せた。防衛省筋によれば日本の探知能力は照射をした機器のメーカーの名前までわかるほどのものだと言う。加えてヘリの場合は、録画していないが、艦船の場合は録画機能を備えており、これを明らかにすれば動かぬ証拠になる。しかし、どこまで公表するか迷っているようだ。その理由として、日本の防衛能力の機密に当たる部分が分かってしまうことを挙げているが、これはおかしい。レーザー機器などはすでに近代兵器でも何でもなくなっている。主要国の艦船や航空機が備えている兵器の情報を公開したからといって、それほど問題は生じまい。機密漏洩が生じない範囲において公開すれば良いことだ。中国は黙っていれば調子に乗って、日本捏造説を言い続けるだろう。ここは、証拠を明示して中国側に釘を刺しておくべきところであろう。
政府が公表を躊躇する背景には、野党対策がある。野党は既に発表までに6日間の空白を作ったことを、問題視しており、公表すれば、過去にさかのぼった照射の実態を明らかにするよう要求することが目に見えている。これは過去の照射をなぜ見過ごしてきたか、と言う批判をさらに巻き起こす恐れがある。しかし、民主党政権を含めた過去の政権の問題にまで配慮する必要はない。こうしてアベノミクスならぬ「アベノキシュウ(奇襲)」は、中国に対して強い牽制球を投げる効果をもたらしている。中国側は明らかに戸惑い、国際的に追い詰められる危険を感じているのが実態であろう。安倍はこの機会をとらえて対中政治対話に踏み切るべきだ。とりあえずは、自民党副総裁・高村正彦の首相特使としての訪中を早期に実現することが必要だろう。中国も3月末の全人代で習近平を国家主席に選出するの機会に、本格的な外交に乗り出すだろう。対米外交が最重要課題になるとみられるが、そのためにも日米安保体制の再構築が不可欠な情勢だ。国の安全保障の観点から見れば、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉への参加などは躊躇すべき問題でもない。オバマには交渉参加を表明し、強固な地盤を築くべきだ。韓国の新政権とも早急に関係改善を図る。その上で韓国で5月に開催される予定の日中韓首脳会談を“手打ちの場”とする方向で調整に全力を傾注すきであろう。
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