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2013-01-31 00:00
野党の代表質問は湿った線香花火
杉浦 正章
政治評論家
駆け出し政治記者の解説記事みたいで、突っ込みが足りないのが民主党代表・海江田万里の質問。年増男のすり寄りみたいで薄気味悪いのが、維新国会議員団長の平沼赳夫のエール。自公325議席の壮観に圧倒されたか、野党による衆院代表質問は、首相・安倍晋三の安全運転の壁を突き破れぬまま、湿った線香花火のようであった。これでは通常国会は与党ペースにはまってしまう。民主党308議席の時の本会議場は、まるで成金のような小沢チルドレンたちが大騒ぎしてみっともなかったが、さすがに自民党は老舗の教育が行き届いていると見える。“丁稚議員”らも紳士的であった。演壇に立った海江田は議場を見回して、学校の一クラスあまりしかない、隅っこの民主党席に意気込みも萎えたに違いない。ひたすら汗をかいて、誰が描いたか分からない原稿の棒読みに終始した。その内容は参院議員会長・輿石東がかねてから「経済評論家なのだから、気の利いた一言でアベノミクスを切らないと」と陰で批判していたとおりだった。海江田は焦点の経済再生に照準を合わせたものの、その質問は“常識的”であり、ひらめきなど感じられなかった。
海江田はアベノミクスを「族議員が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する利益誘導政治、弱肉強食社会を生む新自由主義的な経済政策などが復活しようとしている」と批判。道路特定財源の復活ともとれる古い自民党的体質をクローズアップさせようとした。しかし安倍から「長引くデフレや円高が、頑張る人が報われるという社会の信頼の基盤を根底から揺るがしている」と大向こううけのする発言で切り返えされては、どうしようもない。海江田に迫力が生じないのは、議席数だけではない。民主党3年3か月でアベノミクスに匹敵する経済対策は打ち出せず、党内抗争に終始して、政策より政局の政治しかできなかったことが、負の遺産として重くのしかかっているのだ。確かにアベノミクスは特効薬か劇薬かはまだ不明だが、内閣支持率は好転、市場が好感して株価上昇と円安局面という展開だ。これを前にしては、海江田も撃つタマがないのが実情だろう。党内の反対を考慮してか環太平洋経済連携協定(TPP)には一言も触れず、所信表明で触れなかった安倍と同様に、TPPが与野党の“鬼門”であることがはっきりした。
安倍は超安全運転に徹したが、さすがに衣の下から鎧が見える答弁もみられた。まず憲法改正に関しては「まずは多くの党派が主張している96条の改正に取り組む」と明言した。過去に首相が国会答弁で憲法改正に具体的に言及した例はない。集団的自衛権の行使に関して「新たな安全保障環境にふさわしい対応を改めて検討する」とこれも持論を表明した。民主党政権の「30年代に原発ゼロ」方針については、「具体的な根拠が伴わない。ゼロベースで見直し、責任あるエネルギー政策を構築する」と、再稼働と新設に改めて前向き姿勢を見せた。日中関係は、芽生えた対話ムードを評価してか「もっとも重要な2国間関係の一つだ」と形容した。その一方で、尖閣問題を巡っては「領土、領海、領空は断固として守る。わが国周辺の安全保障環境が一層厳しさを増していることを踏まえ、防衛体制の強化の観点から見直す」と中国をけん制している。中国には硬軟両様の構えを見せた。
こうしたタカ派の姿勢に好感してか、平沼の方は海江田と異なりアベノミクスを評価すると共に、安倍の憲法改正や集団的自衛権行使を礼賛した。「日本再生のために頑張って欲しい」 「経済政策での首相の立場に共感を覚える」と度々エールを送った。平沼は事前に大阪の共同代表・橋下徹にも内容を説明したようだが、党機関の討議を経ての質問ではない。維新支持層は基本的には浮動票だが、傾向としては改革を求める層が多い。保守色の強い平沼の理念と「大阪維新」を含めた、支持層の理念とは必ずしも一致しないだろう。平沼は、石原慎太郎の「憲法破棄」論にも言及して、石原への気配りを見せた。1か月後の施政方針演説では手のつけられない極右国粋主義者の石原が代表質問をするという。憲法に加えて、「尖閣で血を流す覚悟」「核保有」「徴兵制」などの発言を繰り返せば、「石原・太陽」グループと「大阪維新」の溝は深まる一方であろう。せっかく初々しいはずの新党も、石原や老人グループが着々とそのイメージを形成しつつある。橋下が不本意でないはずはない。こうして通常国会の代表質問は、今国会の与野党攻防図を鮮明にさせる形となった。民主党は大筋としては対決路線を進めるものの、社会保障と税の一体改革での3党合意も守らなければならない。「何でも反対」政党はもう世論に通用しない。従って、「鋭」角でなく、「鈍」角の対決にならざるを得まい。維新は「第二与党」の色彩を帯びそうな気配だ。だから野党は補正予算案や来年度予算案を人質に取るような国会運営はできないだろう。もっとも半年後に参院選挙が迫っており、自民党にとって安易な国会運営はできないことは確かだ。
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