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2013-01-18 00:00
日本経済「対中再逆転」
田村 秀男
ジャーナリスト
2013年が本格的に始動した。これまでの不振がまるでウソだったかのように、株式市場が沸き立っている。安倍晋三首相が「脱デフレ・円高是正」を口で唱えるだけで威力は十分だ。首相は1円も使わなかったのに、日銀が幾度も10兆円単位で金融緩和を追加しても無反応だった外国為替市場が円安に転じ、資金が株式に流れ込む。外からも追い風が吹いてくる。米国は懸案の「財政の崖」からとりあえずは転落を免れ、欧州では問題児ギリシャが債務危機の断崖のうえに踏みとどまった。日本は経済再生に向け千載一遇の機会に恵まれたように見える。問題はこれからだ。
どうすべきか。まず、日銀にインフレ目標を設定させること-は当然だ。2%のインフレ目標だと、物価水準の上昇幅が2%あたりになるまでは、日銀がお札を刷って金融市場に超低金利のカネを流し込み続けるというメッセージが明確になる。すると、円高是正傾向は定着して企業収益見通しが大幅に改善する。株価上昇軌道も安定しよう。安倍政権は、責任逃れできるようにあいまいな目標にしたい白川方明(まさあき)日銀総裁を厳しくチェックし、政府・日銀共同合意に持っていくべきだ。だが、それでも日本再生の迫力に欠ける気がする。何しろ、日本はバブル崩壊後の「空白の20年」というぬるま湯にどっぷり漬かってきた。メディアでは「物価が上がっては大変だ」というふうに、現実にはありえぬ悪性インフレへの恐怖を煽(あお)る言説が後を絶たない。
インフレ目標とは、物価の値上がり幅以上に所得や雇用を増やすことだという世界の経済常識が、この国では絵空事のように語られる毎日だ。要するに、今の日本には、14年間で国内総生産(GDP)の名目規模が1割も細ってきた中で醸成された萎縮思考があちこちにこびりついている。財務官僚は増税がデフレを助長し、税収全体を減らしてきた失敗を省みず、ひたすら消費増税シナリオの実行を画策する。ネット世論多数派はすっかり内向きになり、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が日本の農業や医療を壊滅させると言い張り、推進派を罵倒する。日本が真の意味で再生を果たすためには、政治の手でこれまでの通念や政策を根本から覆し、反攻に転じる政策を大胆にとるしかない。日銀のインフレ目標はその点で、日本巻き返し策のほんの一章でしかない。中身ある大型の財政出動を金融緩和に組み合わせ、財政、金融の両輪をフル稼働させることで、脱デフレの道を走り出せるだろう。
日本は何を反攻のゴールにすべきだろうか。名目GDPを毎年3、4%成長させる案は結構だが、それはプロセスである。終着点はいっそのこと、名目GDPでの対中再逆転に置いてはどうか。中国は2010年に名目GDPのドル換算規模で日本を抜いたが、成長率以外の最大の要因は中国のインフレと日本のデフレである。現に、インフレやデフレ要因を取り除いた2000年価格ベースのGDPでは日本が2011年時点でその1.42倍と中国を大きく上回っている。日本が正常なインフレ率のもとに適度な経済成長軌道に回帰すれば、名実ともに中国を再び上回る日が来るに違いない。そのとき日本国民は国力回復に自信を深め、米国からは信頼を、アジアからは畏敬の念を得るだろう。
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