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2013-01-18 00:00
安倍政権は日中危機打開で早期対話を
杉浦 正章
政治評論家
中国のことわざには「井蛙(せいあ)には、以て海を語るべからず」がある。カエルに海のことを話しても分からないということだ。しかし、さすがに狡知に長けたお国柄だ。蛙をわざわざ呼び寄せて逆に利用した。日本では「暗愚大王」でも、国際的には元首相だ。鳩山由紀夫が「尖閣諸島は係争地」と言えば、国際宣伝上はそれなりの重みを持って響かせることができる。国論2分を印象づけられるのだ。その言い回しも、双方で事前に企んだ形跡が強い。おりから共産党総書記・習近平は明らかに尖閣問題を内政に活用して、自らの地盤固めを展開、軍部の対日戦争論を煽っているフシがある。首相・安倍晋三はそろそろ疝気(せんき)筋に引っかき回されないように、公式ルートでの接触、対話を展開すべきではないか。朝日川柳には「出てきては、政治を引っ掻き回す鳩」があった。国内政局での無能ぶりは、お笑いで済むが、こと外交になるとそうはいかない。昨年は政府が挙げて止めるのも聞かずに、イランを訪問して、海千山千の大統領・アフマディネジャドとの会談でその無能ぶりを活用された。「イスラエルの核兵器保有を黙認するIAEAは不公平だ」という意味の発言をしたとされてしまった。懲りない男は、こんどは中国で全く同じように利用された。筆者が年初に指摘したように、日中外交上の焦点は「尖閣諸島に領土問題は存在しない」という日本側の主張を日本政府が変更するかどうかに絞られているといわれる。中国は変更させて日本を交渉の場に引きだして、圧力をかけ続けるというのが選択肢の一つだった。
もちろん日本側は「領土問題存在せず」の方針を変えるつもりはない。その核心部分を鳩山「係争地」発言が毀損したのだ。政府は怒るわけだ。官房長官・菅義偉が「わが国の立場と明らかに反する。総理大臣をした方の発言として、非常に残念で、極めて遺憾だ」と批判。あの紳士的な防衛相・小野寺五典までが「日本にとって大きなマイナスだ。中国はこれで係争があると世界に宣伝し、国際世論を作られてしまう。久しぶりに頭の中に『国賊』という言葉がよぎった」と国賊呼ばわりした。確かに日中危機の根源を作った石原慎太郎と共に国賊であることは間違いない。ところが鳩山本人は全く分かっていない。「係争地だと暗に認めていたからこそ、日中関係は進展してきた。政府はかつての考え方に戻り、早く関係改善への答えを見いだすべきだ」とまさに無知丸出しの国賊ぶりを遺憾なく発揮している。普天間発言と全く同じで、物事を理解できないのだ。この際母親の安子夫人には鳩山御殿に座敷牢でも作って、外に出さないようにしてもらうしかない。
沈黙を守っている習近平の出方が最大の焦点だが、3月の国家主席就任前から尖閣問題を国内の地盤固めに活用している様子がありありと分かる。軍部の独走を見て見ぬ振りをしているというか、影で人脈をつかって煽っているフシが濃厚だ。『解放軍報』によれば、総参謀部は全軍に向けて発した2013年の「軍事訓練に関する指示」の中で、「戦争準備をしっかりと行い、実戦に対応できるよう部隊の訓練の困難度を高めよ」と、明らかに対日戦準備ととれる指示を出している。小野寺が自衛隊機が進入した中国機に対して曳光弾の発射で警告するかどうかについて「これは国際法と自衛隊法で決められた通りにやるだけである」と是認したことにも、すぐに反応した。解放軍少将・彭光謙は「日本が曳光(えいこう)弾を1発でも撃てば、それは開戦の一発を意味する。中国はただちに反撃し2発目は撃たせない」といきまいた。
中国政府はテレビでも戦争前夜のような番組を放映させて、国民を煽っている。「限定戦争か、全面戦争か」の論争を紹介したり、最近の放送では、水上機の超低空訓練の様子を報じ、レーダーにとらえられずに人員や装備を運べると、“尖閣占拠”をほのめかしたりしている。こうした宣伝・扇動工作は国民の対日感情をフルに活用して自らの地位を固めようとしていることに他ならない。おりから国内は報道の自由を求める言論人が様々な動きを見せ、共産党幹部の汚職や、都市と農村の格差を不満とする暴動が絶えない。新指導部としては、一番狡猾で、効果的で、安易な手法を選択しているのだ。だが、筆者が指摘しているように、尖閣戦争で日米連合軍に勝てることはまずない。今どき水上機などがいくら頑張っても、戦闘ヘリ1機で撃墜できる。米軍は空母数隻で中国沿岸を封鎖する。負ければ内乱が待っており、共産党1党独裁は崩壊の過程に入る。こうした中での安倍の東南アジア歴訪と来月には実現するであろう訪米は、対中けん制の意味合いが濃厚なものとなっている。ゆるやかなる対中包囲網の形成は、選択肢としては正しい。しかし、習近平の“挑発”に乗ることは避けねばならない。公明党代表・山口那津男が来週にも訪中する予定だと言うが、これは恐らく安倍の対中瀬踏みの一環ではないかと思われる。さらに自民党副総裁・高村正彦を首相特使として派遣する構想もある。外相・岸田文男も日中外相会談を模索している。いずれも困難な会談となるだろうが、疝気筋にかき回されるよりはよい。まずは対話すること自体から解きほぐしてゆくことが必要だ。
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