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2013-01-10 00:00
(連載)「宇宙の平和利用原則」は誰に向けられたのか(2)
鈴木 一人
北海道大学大学院法学研究科教授
この決議の下敷きになったのは原子力基本法における「平和の目的に限り」という文言の解釈であり、ここには自衛隊が開発・運用・利用してはならないという解釈があった。それをロケット技術に当てはめたのが「宇宙の平和利用原則」決議ということになる。つまり、この決議は国民に向けた、政府は宇宙開発を軍事的な目的に利用せず、完全に自衛隊を排除した宇宙開発をするという宣言という性格を持っている。ここまでは特に違和感なく理解できるのだが、この決議が「国民に向けた」ものでしかなく、「世界に向けた」宣言になっていないというところに違和感を持つのである。つまり、「平和」という国際システムの中で実現しなければならない事象を、国内に向けてしか考えていなかった、という点に違和感を持つのである。
平和の定義は案外難しいのだが、とりあえず現存の国際秩序が維持され、武力紛争の無い状態とするとしても、「宇宙の平和利用原則」すなわち、日本の宇宙開発が平和の目的に限り行われると宣言し、他国に対して攻撃的な意図を持たないだけでなく、他国の軍事活動を偵察したり、自衛隊の部隊運用のために通信衛星を使うと言ったこともしない、という宣言は、外国から見れば、奇妙なものと映るであろう。というのも、平和を守り、現存の国際秩序を守るためには、他国の情勢を監視し、紛争に至る可能性のある出来事を、紛争に至る前に解決するのが当然と考えるからである。にもかかわらず、日本の「宇宙の平和利用原則」は、そうした偵察などの行為すら否定するものとして解釈されてきたのである。
これでは、外国の軍事戦略の専門家が、日本の「平和利用」の概念を疑ってかかっても仕方がない。つまり、日本の「宇宙の平和利用原則」というのは、自衛隊を宇宙開発から遠ざけて、国民がとりあえず安心するという、国内向けにのみ取られた宣言であり、外国から訝しく思われることには注意を払わず、外国に対して「日本にとっての平和利用とはこういうものである」といった訴えかけをすることもない宣言であったのである。言い換えれば、「宇宙の平和利用原則」は、国民を満足させるだけの自己満足のための規定であったと言わざるを得ないということである。
既に、2008年の宇宙基本法で、これまでの「宇宙の平和利用原則」の解釈は変更され、こうした自己満足という要素が取り除かれ、「国際の平和と安全および我が国の安全保障」に資する宇宙開発が出来るようになったということは諸外国から見ると、よりわかりやすい定義になったと考えている。実際、アメリカ、欧州、中国の研究者や外交官などと話していると、宇宙基本法の立場の方がよく理解されることが実感できる。(つづく)
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