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2013-01-09 00:00
ネット選挙なら波乱含みの参院選
杉浦 正章
政治評論家
首相・安倍晋三がしきりにネット選挙を提唱するわけが分かった。フェイスブックの「安倍晋三ファンのページ」を見れば一目瞭然。他の政治家のホームページなどと比較すればビジュアル性、話題性において圧倒的にリードしている。恐らくプロのジャーナリストを使っているに違いない。相当金もかけている。安倍は先の総裁選で首相・野田佳彦から党首討論を持ちかけられて、ネットの「ニコニコ動画」でやろうと逆提案。我田引水に成功した。ネット選挙解禁も、ネットに引き込んで参院選にも勝利しようという魂胆が見え見えだが、そうは問屋が卸さないのがネット世界。西部劇のような弱肉強食性が選挙において強まり、「風」が勝敗を決める傾向が一段と出てくるであろうからだ。確かに戦争直後に出来た公職選挙法は、物資もカネもなく、伝達方法もままならぬ中で、公正なる選挙実現で、戦後の民主主義に大きく貢献してきた。しかしネット情報化社会となって、ネットが出来なければ人類とは言えない時代となっては、明らかに時代の要請に応じていない選挙法となっている。今や古色騒然だ。だからといって、橋下徹のように選挙中に法律違反のツイッターを繰り返してはいけないことは言うまでもない。「もしかしたら、僕は選挙後に逮捕されるかもしれない。その時は助けてください」とおびえたくらいだから、警察は逮捕すればよかったのに、何の配慮か逮捕しない。もっとも過去のケースでは、書類送検しても不起訴に終わっており、公選法自体がネット時代にザル法化しているのだ。
何と言ってもネット選挙の先進国は米国だ。とりわけ大統領選ではネット選挙が威力を発揮しており、オバマはネット戦で勝利した側面がある。「あなたの50ドルは他の人の50ドルと合わせて100ドルになる」という電子メールを大量に送って個人献金を呼びかけた。その結果、総額3億4千万ドルもの個人献金を集めることができた。小口献金をした有権者が、選挙が進展するに従って2回3回とクリックした結果だという。しかし、初めてネット選挙をしようというのに、ネット献金まで認めるかというと、現状では不可能に近い。まず献金の安全性が問題だ。ただでさえネット詐欺が横行している状況下で、まんまと詐欺師に働く場所を提供するだけという結果が予想されるからだ。急がなければ参院選挙に間に合わないこともある。従って当初の法改正は、現在総務省見解でネットを文書図画の頒布とみなして禁止している方針を撤回する程度しかできまい。つまりホームページ、ブログ、ツイッター、フェイスブックなどに限っての解禁であろう。参院選は7月21日が有力であり、遅くても5月中、政党や個人への周知期間の徹底を考えるともっと早い段階での成立が不可欠となろう。もちろん政党、候補者は今から準備して態勢を整えなければ間に合わない。
ネットで評判になるには、何といってもビジュアル化と話題性だ。現在の政治家のホームページを読む気にならないのはこれに欠けるからだ。NHKの政見放送が始まると瞬時にチャンネルが変えられるのと同じで、人を引き留める力が無ければ、いくらネットを活用しようとしても無理だ。ひとたび評判が立つと、あっという間に伝搬して、その候補のサイトが浮かび上がる。ネット選挙は政党にとっても個人にとっても「風」の選挙になるゆえんだ。安倍はネット選挙の低コストを強調するが、よく分かっていない。こればかりは逆ではないかと思う。しょせん素人が話題性のあるサイトを作ることは不可能であるからだ。今でも広告代理店、PR会社、ウエブ製作会社が、政治家のホームページなどを作るケースが多いようだ。選挙ではこの傾向がさらに強まり、代理業者の能力によって当落が左右されることになり得る。候補が金をいくら払えるかによってサイトの良否が決まる可能性が高い。安倍は自分で高価なサイトを作って置いて、「金がかからない」はない。よきにはからえの殿様か。
さらに立法の過程で重視しなければならないのは、「なりすまし」対策だ。候補になりすまして選挙妨害するケースが世界中で見られる。2010年のイギリス総選挙では保守党党首のデービッド・キャメロンと同じ名前のサイトが出現、ポスターの画像や文字を換えるなどの妨害行為が行われた。巧妙なる便乗型選挙運動の例もある。2009年のフロリダ州の市長選で、ある候補がグーグルと契約して有権者が別の候補を検索でクリックすると、自分のサイトにジャンプするボタンが現れるようにした例がある。まさに生き馬の目を抜くネット選挙である。安倍の提唱によって恐らく公選法改正案は成立する流れだろう。公明党も賛成だし、他の野党も推進論が圧倒的だ。どうせやるなら与野党は早期に成立させて、混乱を未然に防ぐ必要があろう。参院選はネット選挙によって波乱含みの様相となるだろう。安倍がいくら先行しているからといって、有利になるとは限らない。一夜にしてどんでん返しもあり得るから恐ろしい。ここで注意が必要なのは一般人のホームページやブログにも規制がかかりかねない点だ。これは憲法が保障する言論の自由に、真っ向から抵触する恐れがあり、慎重に事を運ぶべきであることは言うまでもない。クギを刺しておく。
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