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2012-12-15 00:00
対中アジアシフト「パート2」は経済で
高畑 昭男
ジャーナリスト
一般論では、2期目のアメリカ大統領は「怖いものなし」といえる。再選を気にして節を曲げる必要はさらさらないし、気まぐれな世論に迎合する必要もなくなるからである。だが、現実はそう甘くない。2期目のレーガン大統領は、イランへの武器売却代金をニカラグアの反共組織支援に流用した「イラン・コントラ事件」に見舞われた。2度もテレビで国民に謝罪させられ、側近を含む高官らが大量に訴追された。クリントン大統領も、不倫・偽証疑惑で不名誉な大統領弾劾にさらされた。無罪にはなったものの、元インターン嬢の青いドレスと同じく歴史に汚点を残す羽目に陥った。
しかも、大統領の2期目はフルに4年間あるようで、実は短い。2年目には中間選挙、3年目には次のイスを狙う候補者たちが名乗りを上げて後継レースが始まる。レームダック化が駆け足で迫ってくる。内政も外交も、勝負の時はせいぜい3年、運が悪ければ2年ちょっとしかない。この間に歴史に名を残そうとして、無理な政策で失敗する例が後を絶たない。その典型といえるのは、ブッシュ前大統領2期目の北朝鮮政策だ。極端な融和策に走り、核放棄のあてもないのにテロ支援国家指定の解除や重油支援を北にただ取りされ、日米連携にヒビを入れてしまった。こうした「2期目のわな」ともいうべきリスクも踏まえ、オバマ大統領はアジアで何をめざすのか。
その手がかりとなるのは、クリントン国務長官が今月17日、シンガポールで行った演説だ。オバマ大統領とともに東アジア首脳会議へ乗り込む直前の演説で、「21世紀の歴史はアジアで記される。戦略・安全保障面のわれわれの努力は周知のことだが、次は経済が肝要だ」と2期目の重点を経済・通商に置く方針を強くアピールした。昨年秋、中国の急速な台頭に対抗する「アジア太平洋シフト」を打ち出して以来、米国は外交では「戦略的転回(ピボット)」、軍事面では「リバランス」と呼ぶ政策を展開してきた。米海軍主力の6割を太平洋に向けるなど抑止と牽制のレベルを高め、外交では同盟国や協力国とのネットワークで中国を包み込む。この「周知の努力」に加え、クリントン氏は「経済が戦略環境を形成する」と力説した。昨年来の外交・軍事展開を「パート1」とすれば、アジアシフト「パート2」は経済・通商だ。早い話が、2期目は外交・安保と経済・通商を両輪に中国を攻めたてていくということなのだ。
そのためには、自由で開かれた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の早期妥結が重要な柱となる。また、クリントン長官は「経済を戦略課題に活用する」とも語っており、経済支援をテコに民主化を求めるミャンマー方式をさらに拡大する作戦だ。もちろん、オバマ氏2期目にとってアキレス腱が「財政の崖」にあるのはいうまでもない。日本円で45兆円にも相当する急激な財政削減を回避しないことには、外交も安保も経済もない。大統領もさぞ憂鬱なことだろう。国防費が大幅に削減されれば、日米同盟の抑止力にも響いてくるのは確実だ。オバマ氏の憂鬱は日本にとっても重苦しいことである。それでも、安保と経済で中国に対抗していこうというオバマ戦略を成功させたいなら、同盟国・日本の積極的なTPP参加は不可欠となる。日本では衆院選が熱を帯びているが、各党はこうしたTPP参加の戦略的意義を見失ってはいけない。
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