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2012-12-04 00:00
朝日は自ら「原発ゼロ」の工程表を明示せよ
杉浦 正章
政治評論家
総選挙に向けての争点に原発維持の是非が集中している。まるで日本が石油を止められて太平洋戦争に突入したABCD包囲網のごとく、原発ゼロ包囲網が自民党を取り囲んでいる。まるで今度は石油ではなく原発で日本の首根っこを押さえ、亡国の道をたどらせようとしているかのようだ。自民党は「原発再稼働・将来はベストミックス」の立場を表明しているが、責任政党としてもっとも信頼できる態度だ。これに対して、軽佻浮薄な大衆迎合新党をはじめ、その他の既成政党が、ゼロへの工程はおろか、新エネルギーの展望も示さないまま、ひたすらゼロを唱えている。そして言論に一番影響力のある朝日新聞がその“音頭”を取っているのだ。まるで「社是」のごとく原発ゼロへと誘導している。本来国家にとって生命線のエネルギー政策をポピュリズムの渦中に置いて議論すべきではないにもかかわらずだ。朝日の脱原発キャンペーンは凄まじいものがある。日米安保反対のキャンペーンや小選挙区導入のキャンペーンに勝るとも劣らないものがある。最近のトップを見れば、11月26日の世論調査とトンネル事故などを除いて、すべてが原発問題だ。「脱原発自民と維新が慎重」「脱原発競争自民は距離」「がんリスク福島事故の影響」などなど。さすがに社説では断定できないようだが、その基調は言うまでもなく原発ゼロ志向だ。社説は「原子力・エネルギー政策は、将来の国のかたちを左右する。今度の総選挙で最大の争点のひとつだ」と煽りにあおっている。編集方針は読んだ有権者を原発ゼロに“誘導”するという巧妙な“手口”だ。
この原発ゼロのキャンペーンを成功させたら、間違いなく日本は亡国の道をたどる。朝日は「電気料金2倍」に家庭も企業も耐えられるというのか。2030年ゼロで、太陽光、風力発電などのコスト128兆円増、家庭の電気代月1万1千円増、経済へのマイナス効果45兆円という。日本経済の破たん必至の状態に朝日は責任を持てるのか。朝日は社説で「電力需給の面だけなら、ほとんどの原発が必要ないことが明白になった」と書いているが、エネルギー価格高騰に悲鳴を上げた電力会社の相次ぐ値上げ申請を故意に無視している。社説は政党に対してゼロへの工程表を求めているが、そんなにゼロにしたいのなら、自ら工程表を堂々と明示すべきだ。政党が出来るのなら、朝日に出来ないはずはない。国際的にも電力料金の差は中国、韓国の国力を伸ばし、相対的に日本の国際競争力を減退させ、亡国の道をたどらせる。国力が衰えれば、被災地の復興どころではなくなる。福島の被災者は実に気の毒で同情するが、被災者も日本がつぶれては救済の方法も財源もない。これが現実だ。
こうしたキャンペーンに踊らされて、新旧政党が熱いトタン屋根の上の猫のように飛び跳ねている。その原発政策から大衆迎合度のひどさを図れば、まず一番ひどいのは未来の党の2022年原発ゼロだ。もともと代表・嘉田由紀子は大衆迎合の気配が濃厚であったが、今度は究極のポピュリズムだ。「22年ゼロ」に根拠はなく、「財源はいくらでも出てくる」というのは、3年前の民主党そっくりの主張だ。原発政策への理解度も薄く「原発再稼働あり」と発言して、慌てて引っ込めるという醜態ぶりだ。嘉田の印象は暗く、なにやら突如出現した小沢支配の“妖怪政党”のような感じが濃厚で、読売の調査でも「期待しない」が70%だ。日本維新の会代表・石原慎太郎は、全く原発問題を理解していないことがはからずも党首討論で明らかになった。自分が作ったはずの維新公約の核心「30年代にフェードアウト」を知らず、「それは何だ」と宣うた。おまけに、公約からの除去を明言したが、そのままになっている。首相・野田佳彦が問題なのは、夏の時点では原発再稼働を推進してきたにもかかわらず、選挙対策の蜜に引っ張られて、急速に方針転換して、30年代原発ゼロを言い出したことだ。ポピュリズム政党の先祖返りもいいところだ。
共産、社民は「即時ゼロ」だが、“確信犯”であり、こればかりは勝手にお経を唱えていればよい。みんなの党の20年代ゼロも、30年代より早くして目立とうとしているだけであり、その工程も定かではない。代表・渡辺喜美以下言ってることは、まさに口から出任せばかりだ。手に負えないのは、理路整然と方向を間違っていることだ。公明も創価学会の意向の反映か「1年でも5年でも10年でも早くゼロ」だが、これで自公連立政権を担う責任政党だろうか。こう見てくると、大衆迎合路線を取っていないのは、自民党だけである。この原発ゼロへの“風圧”の中で立場を変えないのは、さすがに信頼感をもてる。猫も杓子も原発ゼロの中では、返って存在感が出てくる。NHKの世論調査でも、原発問題は「時間を掛けて結論」が35%で最も高い。まさに自民党の路線だ。朝日以外の新聞は毎日が、何と公示日4日のトップで「脱原発、問われる本気度」と露骨なる“ゼロ誘導”を展開し始めた。読売は同日付で政治部長が「国民に負担となる情報は伏せたまま、原発ゼロだけを吹聴するのは無責任」と正論を述べている。日経、産経は原発維持が方針だが、いささか主張が鈍くて、パンチ力に欠ける。もっとエネルギー戦略を前面に出した主張を、発行部数など気にせずに展開すべきである。ことは国家の危機だ。時には朝日の論調の欠陥を直接指摘して論争を挑むくらいでなければ、問題の所在が有権者には理解されない。
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