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2012-12-01 00:00
英国の知恵を日本の安全保障に
高畑 昭男
ジャーナリスト
尖閣諸島をめぐる日中の緊張が続く中、来日した英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の主要メンバーらによる記者会見やシンポジウムが、10月に東京で集中的に開かれた。日本ではなじみが薄いが、RUSIは1831年に英王室の肝煎りで創設された。大英帝国の外交を縁の下から支えた世界最古の軍事・安全保障シンクタンクとして有名だ。200年近い豊かな経験とノウハウを生かして、冷戦時代はもちろん現在も英政府の外交安保政策に助言し、米国や豪州などと緊密な情報交換ネットワークを誇っている。世界の政治、経済、安全保障の焦点が大きく欧州からアジアへ移行したのを見据えて今年初め、アジア太平洋を統括するアジア本部(秋元千明所長)を東京に開設した。既に日本政府やカウンターパートの防衛省防衛研究所との関係を深めつつあるが、今回の一連の企画はアジア本部開設にちなんだものだ。
とりわけ今は、中国の軍事的台頭と強引な海洋進出に日米を含む諸国がいかに向き合うかが地域最大の安保課題といえる。英国は近代史で対中関係の経験が日本より深い部分があり、この点でも日本にとって示唆に富む意見が少なくなかった。日本記者クラブでの会見では、来日チームリーダーのマイケル・クラークRUSI所長が「日本には中国の挑発に乗らずに長期外交戦で勝てる能力と国際的地位がある」と尖閣をめぐる対立に言及し、その一方で軍事的に「譲れない一線」を明示することも重要だと指摘した。またキヤノングローバル戦略研究所(CIGS)で行われた円卓協議では、2040年代の中国の近未来シナリオが紹介された。その上で、「米中共同管理」(G2)、「米中冷戦」などの多様な想定に備えて中長期的に国益、同盟関係、国際秩序などの観点から利害得失を分析する必要性が示された。
日本の安全保障の基軸が日米同盟にあることは言うまでもない。これに加え、日英はユーラシア大陸の両端に位置する島国で、自由と民主主義の価値を共有する。航行の自由に依存する海洋国家同士でもある。英国は米国と「特別な関係」で結ばれた同盟国であるだけでなく、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)で欧州諸国と結ばれ、英連邦を通じて豪州、インド、シンガポールなど世界の国々と多様で重層的な関係を築いている。中国と向き合う上で、日本も重層的な同盟と協力のネットワークを拡大することが欠かせない。かつての日英同盟の絆を現代に生かし、新たな生命を吹き込みたいものだ。
日英の戦略的協力は、2007年に当時の安倍晋三首相がNATO本部を訪問して先鞭をつけた。今年4月、野田佳彦首相が来日したキャメロン英首相と新たな「戦略的パートナーシップ」関係をうたい、6月には武器輸出三原則の緩和を含む防衛協力を進めることで合意した。だが、両国の絆を強めるには、政府間だけでなく、シンクタンクなどを通じた人と人の交流も大切だ。RUSIが他の国ではなく、アジア本部をあえて東京に開いたことに、日本の底力に対する期待があったとすれば、ぜひともこれに応えなければなるまい。
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