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2012-11-12 00:00
野田の「TPP参加」は争点隠しにすぎない
杉浦 正章
政治評論家
いよいよ政局は今週から自民党総裁・安倍晋三のいう「クライマックス」の段階に突入する。大きな潮流は解散へと流れており、これを押しとどめることは極めて困難な情勢にある。なぜなら解散風は首相・野田佳彦本人の主導による側面が強いからだ。あとは幹事長・輿石東ら民主党内反対派を“掃討作戦”で、いかに黙らせるかだけとなってきた。11月11日夜の野田・輿石会談は、解散をめぐるぎりぎりのせめぎ合いが行われた公算が強い。今日12日から始まる予算委審議は、事実上選挙戦の火ぶたを切るような激しい論戦が展開されるだろう。野田が選挙の争点に環太平洋経済連携協定(TPP)参加を持ち出したのは、苦肉の策の争点すり替えだ。野党は対立の焦点にすることを避けるだろう。野田の9月からの幹事長・輿石東への急接近について、筆者は「味方をだます方策」と推論したが、まさにその通りになって来た。野田は当時「1年間献身的に支えてくれた輿石幹事長とは一蓮托生(たくしょう)だと思っている。これからもしっかり力を尽くしてもらえればと思う」と歯の浮くような発言をした。しかし、現状はというと、輿石は2階に上ってはしごを外されつつあることになる。1人で「年内解散は物理的にない」のラッパを吹いても、もう信用度がないのだ。
背景には何があったのかというと、やはり小沢の影が色濃く輿石に反映していたのだ。輿石は、元首相・鳩山由紀夫と10月10日夜会談して小沢への取りなしを頼むなど、関係修復に努めてきた。その後実際に小沢と秘密会談が実現した可能性が大きいといわれている。永田町筋は「そこで出てきた小沢の“悪知恵”が究極の野田降ろしだった」というのである。小沢の戦略は「いま総選挙をやったら生活が一ケタに落ち込みかねない。したがって、どうしても解散を先延ばしにして、再起のチャンスをうかがいたい」というところだ。生活がもらえるはずの政党交付金11億円も、早期解散では借金の担保にもならない。小沢は「野田が解散するなら、野田に総辞職をさせる」ように輿石にけしかけたとされる。選挙の「顔」を細野豪志あたりに変えて、衆参同日選挙に持ち込もうというわけだ。こうして輿石周辺から朝日への「総辞職」リークが始まったという。朝日が政局記事で度々「総辞職」に触れた結果、党内には総辞職論が本当に生じそうになった。この裏面を知った野田が激怒しないはずがない。野田の武器は解散で切り返すことであり、あえて党内に反対の多いTPPを使っても、解散を断行することでしのごうとしているのだ。11日の会談後輿石は、記者団の質問を無視して車に乗り込んだが、野田との間で相当激しいやりとりがあった証拠だろう。野田の“優勢勝ち”だったに違いない。
まさに政局絡みのTPPだが、果たしてこれが本当に選挙の争点になり得るだろうか。まずなり得ないとみる。野田の争点隠しの苦渋の選択だからだ。なぜなら紛れもなく総選挙の争点は、まず第一に3年半にわたる民主党政権の失政がやり玉に挙がるからだ。3代にわたる首相と、その内閣による内政・外交両面に渡る迷走で、国家、国民が被った“被害”を顧みて反省するのが、選挙の第1の争点に他ならない。次に公約に反しての消費増税の導入も焦点にならざるを得ない。この2大テーマを差し置いて、他にテーマがないかと考えあぐねた結果、野田が打ち出したのが、TPP参加表明後の解散断行だ。しかし、自民党にとってみればこれほど有り難いことはない。実際、自民党幹部は「消費増税に加えてTPPまでやってくれて、野田さん有難う」だという。自民党政権がやろうとすれば、農村部出身の議員の総スカンを食らいかねないが、野田がやれば話は違う。選挙では「野田がやってしまった」と批判して当選すればいいだけの話だ。自民党が政権を取った後も、野田の参加決定をわざわざひっくり返すようなことにはまずならないのだ。
一方で、「0増5減」の定数是正がたとえ成立しても、区割りと周知が終了するまで解散は行うべきではない、という議論が民主党内には根強い。これは解散引き延ばし派がよりどころとする最後の砦だ。最高裁が違憲判決を出したら、選挙結果がひっくり返ると主張する向きも多い。しかし、首相の統治行為のうちでも解散権は「核」となる性質のものであり、まず誰も侵すことは出来ない。それに国権の最高機関である国会が少なくとも「0増5減」の意思表示をした上の解散であり、たとえ次々回からの実施であれ、最高裁も配慮せざるを得ない。真正面からの違憲判決を出して、根底から国政を覆すことなど出来るわけがない。したがって、解散反対派の最後の砦は既に崩れているのだ。こうして冒頭述べたように解散反対論者は掃討されつつある。今日からの2日間の衆院予算委、14日の党首討論は、まさに最大の見物となる。
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