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2012-11-09 00:00
チャイナ・リスクの正体
田村 秀男
ジャーナリスト
中国の反日暴力デモはひとまず下火になったが、対中戦略を見直す日本企業経営者は多いだろう。その際、基本的な認識として持つべきは、中国共産党が投資リスクそのものに転化してしまった点である。共産党の首脳陣が誰であろうともはや日本企業の味方ではありえない。日本企業の対中進出は1970年代末に本格的に始まった。大手メーカー、商社、金融、流通業など主要企業、日本経団連など財界のトップたちはひんぱんに北京の共産党中央の幹部や首脳と会合を持ち、信頼関係の構築に努めてきた。部品、材料加工下請けなど中小企業経営者たちも広東省や江蘇省など各地方の党幹部と接触して合弁相手や立地先を選定してきた。
現地法人には董事長と呼ばれる経営首脳とは別に、この法人の共産党委員会書記のポストを用意して報酬を払う。この書記が「工会」と呼ばれる労働組合を相手に低賃金をのませ、労務上のトラブルを水面下で処理する。共産党組織は党総書記(現在は胡錦濤氏)を頂点にした中央政治局常務委員(9人)が最高意思決定機関であり、各委員につながる人脈が全国に配置されている。このピラミッド型システムが各地での日本企業の投資をサポートする中で、日本企業は電機も自動車も大手から末端下請けにいたるまで安心して対中投資、生産、販売に励んできた。
ところが、数年前からこのシステムはほころびが目立ってきた。農村部出身の労働者が待遇改善や賃上げを要求し、労働争議が頻発するようになったのだ。工会は影響力を失った。背景には貧富の格差の拡大があり、不信感がこれ以上広がらないよう、党中央や地方の党幹部も労働者大衆の不満を押さえつけられない。権力者がそうなら民衆はつけあがるのが中国社会の常である。労働者側の要求はエスカレートしトラブルが慢性化する。そこに起きたのが沖縄県尖閣諸島の国有化である。党中央は「愛国無罪」の旗を振った。すると各地の共産党幹部が競うように「日の丸」への攻撃を始め、「井戸を掘った」松下の工場を含め、日系の工場や店舗への放火や略奪を放置した。対中投資リスクを軽減してきたはずの党システムは真逆の破壊装置に変化してしまった。
格差拡大や鬱積する社会的な不満の解決能力を喪失した党中央が安易な反日ナショナリズム活用に走る。自身の政治的基盤が脆弱な党官僚は保身のために反日で足並みをそろえる。良識派は沈黙の日々だ。さりとて、日本企業はただちに撤退するわけにいかない。莫大な清算費用を突きつけられ、公正な裁判も受けられない。日本政府は企業任せにせずに、今回の破壊や休業に伴う賠償請求や日本人の生命・財産の安全確保を北京に対し厳しく迫るべきだ。このまま何も行動を起こさないなら、政府の資格はない。
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